withComputer

勉強会にスイーツタイムがあってもいいじゃない

なんか批判殺到の「[女性が参加しやすいITイベントの作り方] わたしたちが勉強会に行かない7つの理由|エンジニアtype」という記事について。書きぶりがネタっぽいので真に受けはしないんですけど、スイーツタイムつきの勉強会って、別に全然アリだとは思うんですよね。

僕は大学院にいたころ「スイーツを食べながら」が必須条件の授業に出ていたことがあります。その授業は日本語教師の仕事をしている大学院生を対象にした、簡単に言えば「教師の成長」をテーマにした授業でした。参加者は担当教官とともにテーブルを囲み、お菓子を食べながら、自分の経験を語りみんなでシェアするという内容です。

教育は、完全無欠の知識を注入していくような機械的なものではなく、人と人とのコミュニケーションの上に成り立つ行為です。絶対的な正解があるわけではなく、環境や関わる人によって、教え学ぶプロセスも結果も異なってくるものです。自分や学習者の教育観、学習観、人間観の違いによって教育は千差万別だからこそ、経験を共有し、共感し、みんなで学び支え合っていく体験が教師を成長させる。そんな主旨の授業だったと僕は解釈しています。

この授業で必要とされる「自己の(ネガティブな)体験を語る」というのは、勇気のいることです。何を言っても責められることはない、参加者はみんな味方なんだ、と思えなければ話せません。少しでも安心感を高め、信頼関係を築きながら、リラックスして話せるようにするためのルールのひとつとして、お菓子を食べながら話す、というものがあるわけです。

こういう考え方は、IT系の勉強会と決して無縁ではないと思います。特に人が関わるジャンルの話、例えばディレクションやマネージメントやサービス設計、あるいはデザイン全般といってもいいかもしれませんが、そういうコミュニケーションを扱う勉強会であれば、リファレンスではなく参加者の生の体験をシェアすることが重要になるはずです。スイーツを食べながら行なうことによって、参加者が安心して自分のことを語り、意見交換が円滑に進むのなら、それは素晴らしいことじゃないですか。

僕はそういう授業を経験してきたから余計にそう思うのでしょうが、そういう「みんなで体験や意見をシェアしよう」という目的のもとに行われるIT系の勉強会やセミナーって、驚くほど場の設計がなされていないことが多い気がします。なんか「参加者を円形に座らせて、司会者が適当にお題を出し、話したい人が適当に話す」レベル以上の仕掛けがあるように感じられないわけですよ。実際、話したがりの人ばかりが発言して、2時間枠で一言もしゃべらずに帰る人もいたりします。話が広がりすぎた場合に司会者が軌道修正することもできず、時間が来たので後は懇親会で・・などと締めてしまう。懇親会って言ったってただの飲み会ですよ。結局近くに座った数人と、勉強会の続きとかそうでない話をして、勉強会では黙ってたのに実はみんな結構しゃべりたいことがあったとわかる、みたいな。

IT系のセミナーでも最近はワークショップ形式が増えてきた感はありますが、ワークショップをきちんとやってる人たちからすれば、まだまだ「なんちゃって」の域を出ないものが多いんじゃないかと思います。別に僕も専門家ではないですけど、毎週教師として授業をデザインするにはワークショップ的な視点を常に持っていることが重要ですし、環境の整え方次第で生まれるものが違ってくるというのは実感しています。

残念ながら、大学の授業を含め一斉授業形式の学びしか経験したことがない人も多いと思うので、勉強会の企画や参加に際して「場をきちんとデザインしろ」と言われてもどうしていいのかわからない、というのが正直なところでしょう。参加受付の対応をきちんとする、タイムキープをきちんとする、休憩は意図を持った長さとタイミングにする、コミュニケーションスタイルに合った席の配置、ちょっとしたお菓子の提供など、小規模な勉強会ならすぐに見直せる項目もあるだろうと思います。もちろん最も大事なのは、勉強会のテーマと落とし所を適切かつ明確にすることなんでしょうけどね。

あと、これはIT系だけじゃなく学会なんかでもいつも思うのですが、懇親会ももっと積極的にデザインの対象にしたらいいのに、ということ。参加者みんなが「お酒と食べ物があれば各々勝手に満足する」とは限らないですよ。少なくとも僕はそうです。懇親会は勉強会の2次ラウンド。参加者の顔ぶれを見て、誰にどんな話をしに行くかはいつも考えてます。でも大抵の人って、定位置に固まって特定の人とだけ話してたりするんですよね。学会とかだと派閥もあるし(笑)。そういう状況を個人で打破するのって、けっこう大変なんです。勇気もいりますし。そこらへんを主催側は配慮してほしいなと思うんです。ワークショップのように、コミュニケーションの土台となるような空気を作ってほしい。もちろん、懇親会はお酒を飲んで気分よくなるのが一番大事、という意見もあるでしょう。そこらへんは、参加者のバランスを見て主催側が方向づけすればいいと思うんです。

女性だから男性だからとかじゃなく、何のための勉強会か、どうすれば目的は達成されるのかを、主催側がもっと意識して企画を組み立てられれば、関係者が得られるものもより大きくなるんじゃないでしょうか。もちろん企画をすること自体が本当に大変で頭が下がるんですけど、どうせやるなら「学び方を学ぶ」ことにも注力してほしい。これは参加者も同じです。ワークショップのグループを自然にファシリテーションしてくれている人や、懇親会のテーブルで話の輪を作ったり動かしたりしてくれる人がいるでしょ。自分もできることは意識してやらないと。主催側だけじゃなく、環境はみんなで作っていくものなので。

そう考えると、前述の記事の内容は、そうそう馬鹿にできない内容なんじゃないですかね。スイーツというキーワードに過敏に反応するのもいいけど、勉強会を冷静に分析するいい機会かもしれませんよ。