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UXのデザインに関する自身の実践を振り返る(リクリセミナーに参加して)

先日、Re:Creator's Kansai(通称リクリ)主催のセミナー「聞いて学んで考えるUX講座」に参加してきました。パネルディスカッション+セミナー+ワークショップ、という3部構成の意欲的な試みで、しかもテーマがUXという漠然とした感のあるもの。うまくいくだろうかと心配な面も少なからずありましたが、参加者のコメントも好意的なものが多く、講師をお願いした長谷川恭久さんも良かったと言ってもらえたので、全体としてはそれなりに有意義なイベントになったのではないかと思います。

どんなセミナーだったかについての説明は、リクリの報告ヤスヒサさんのスライドが参考になると思うので、そちらを見てください(恒例の「他人にお任せ」メソッド)。僕は自分が考えたことを書いていきます。

今回のセミナーで、UXを考えるときに3つの「すべきこと」が自分の中にあると思いました。それは「デザインの対象となるUXとは何かを考えること」「UXをデザインするという考え方をクライアントにも知ってもらうこと」そしてそのために「UXのデザインとして自分が実践していることを整理し見つめなおすこと」です。

セミナーでは、前者2つのことはある程度話題になりました。絶対的な正解などは当然ありませんが、自分なりのアプローチを考えるのに必要な素材は見えたと感じました。なので3つ目の「自分の実践の整理」を、この記事でとりあえず簡単にでもやってしまおうと。

僕はよく、プロジェクトの最初に

「このプロジェクトによって、誰がどうなれば(あなたは)ハッピーですか?」

とクライアントに尋ねます。

この問いに対する答えは1つでなくて構いません。いや、基本的にいっぱいあるでしょう。なぜなら「誰が」に普通はバリエーションがあるからです。誰=ターゲットユーザーと考えても、ターゲットが1つに絞れないことも多いでしょうし、誰=クライアントと考えることもできます。クライアントも役職によって事情がいろいろだったりしますよね。本音と建前もあるでしょう。また「サイトによって」じゃなく「プロジェクトによって」と聞いているのもポイントです。目指すべきハッピーな結末に対して、サイトができること、サイトだけではできないこと、ありますよね。抽象的で大きな話と、具体的で小さな話もあると思います。で、出てきた答えに対してさらに同様に質問したり、言葉の定義や具体例や詳細について聞くことで、話を深めていくのです。

例えば、歯が白くなる歯磨き粉を販売するサイトを作るプロジェクトがあったとします。先の質問に対する答えが「みんなの笑顔をいっそう輝かせたい」だとしましょう。白く光る歯でね。なんともキャッチフレーズ的で建前的ですが、これも大きなレベルでは立派な答え。でも、もっと本音というかクライアントのビジネス命題としては「ひとりでも多くの人が当社の歯磨き粉を愛用する」ですよね。そして「愛用する」とは具体的に言うと何か、「笑顔を輝かせる」ことと白い歯を結びつけるものは何か、といった形で問いかけを重ねて話を小さくしていき、具体性や指標やサイト以外の要因を絡めて話をしてもらいます。それはやがて

「(そのためには)何がどうあるべきだと考えられますか」

という問いに発展していくと思うので、そこでサイトのあるべき姿が見えてくる、というのが僕の目論見です。もちろん、この過程で具体化していくのはサイトそのもののあり方だけじゃなく、サイト以外のメディアだったり、プロモーション戦略だったり、商品そのものだったり、企業としてのあり方だったりするでしょう。その全部をゼロから形作っていく、変えていくことは無理かもしれません。でもそうして列挙していくことで、何を前提として扱うのか、いま何をプロジェクトの対象とすべきなのかが明確になります。この(一見面倒な)プロセスを経ることで、制作側はクライアントから業界のことや製品への思いを聞きだすことができますし、全体のどこに不都合や矛盾があるのかも(クライアントが正直に話してくれれば)見えてきますよね。これは制作側にとっては大きいです。

もし、最初に「どんなサイトが必要ですか」と聞いてしまうと、サイトの具体的なイメージを持っていないとクライアントは答えに窮するでしょうし、持っていたとしても限られたパターンの中から無理矢理近いものを引っ張り出したりして、本当に必要なものがなかなか見えなかったりします。遠回りになったとしても、こう尋ねるのがいいんじゃないかなぁと思って、そうしています。

あと、この質問をする大きな理由はもう1つあって、それは「クライアントはユーザーのことを実はよくわかっていない」ということが往々にしてあるから、ということです。だから「サイトが」ではなく「誰が」を出発点にして人にフォーカスすることで「自分たちはユーザーの何を知っているのか、そして知らないのか」を明確にしてもらいたいのです。

日頃僕が手がける案件は、教育機関の情報公開サイトや教材・学習サイトが多いのですが、そうした案件における「誰」は、教師自分自身、同僚教師、学習者(学生)、学内の評価者などが主になります。毎日授業をやっているのだから学習者のことはよく理解しているだろうと思われるかもしれませんが、実際はそんなことはありません。それどころか、同僚教師や自分自身についても、いろいろと振り返らないと、UXにまつわることについて考えるのは難しいのです。同じ学習者の中でもどんな人たちがターゲットになるのか、現状の問題はそれぞれの立場からどう捉えられるのか、僕が聞きたいことはたくさんあります。そのやり取りのなかで、クライアントと僕は「このプロジェクトの本当の落としどころ」を見つけることができるのです。

ユーザーについてわからないこと、実感しにくいことが明確になれば、それをどう調べるかを考えます。時間がない、お金がない、協力者がいないなど、調べにくいこともあるので、他の要素からの推測、想像に頼らざるを得ないこともしばしばです。でも「ここは都合で調べ切れていない」とわかったうえで進めるのと、それすら整理できていない状態で進めるのとでは、大きな違いがあると思っています。

その後、いわゆるワイヤーフレームやモックアップを作るのか、参考になるサイトや資料を集めて知識を補強するのか、といったことは案件によって臨機応変に選択していきます。ここからは、セミナーで扱ったUXの話に重なっていくわけです。

今回、こうしたことを自分で整理して書き出した理由は、必要なことを適切な方法で実践しているか自分で検証するためというのと、この流れをドキュメント化して自分のサイトとかに提示しておけば、クライアントも僕もスタートがスムーズになって助かるんじゃないかということ。どうしても自分のサイトは後回しになってるので、リニューアルの際にこうした要素をコンテンツに含めたいなと思っています。ここまで書いてて、けっこう読み物として書くのは難しいなぁと感じていますが(笑)。むー、がんばるかー。

ということで、今回も様々な発見があったセミナーでした。関係者のみなさま、どうもありがとうございました。