プレゼンにおける話の組み立てかた
- 2013年09月29日
よく「時は金なり」と言うけれど、プレゼンで持ち時間をきちんと守る人は少ない。そのうえ、情報密度の高い濃い話ができる人となると、本当にわずかになってしまう。自分が聴き手の場合には、長くて要領を得ない話にイラッときたりするというのに、話す側になるとそれをしてしまいがち。これはよろしくない。
僕がふだん学会などでプレゼンをするときは、持ち時間が20分程度というケースが多い。具体例をたくさん出して掘り下げていくには足りないけど、要点だけサッと話すには持て余すぐらいの時間。
そんなプレゼンの内容を考えるときに意識しているのが「まずは骨を作って、そこに少しずつ肉付けする」というやり方。このやり方を周囲に話したら、わりと逆のアプローチ(だんだん肉を削っていく感覚)でやっている人が多いようで驚かれるので、この記事では僕のやり方を解説してみることにする。プレゼンの尺に内容を上手く収めるのに苦労してる人とかは、参考になるかもしれない。
骨を見てツッコミを入れる
まず骨を作る。ここでいう「骨」とは、プレゼンの柱となる内容。言い換えると「要するに何が言いたいのか?」ということ。これをまずは言葉にする。あまり長くならない方がいい。ひとことで言えるぐらいが理想。そして、そこに説明や追加情報を加えて「肉付け」していく。全体の量やバランスを見ながら。
抽象的な説明だけではわかりにくいので、お伽話の「桃太郎」をプレゼンすると考えてみる。桃太郎のストーリーを簡潔に説明してみるとすれば、どんな感じになるだろうか。
<
p class="box">桃太郎が鬼退治に行く話。
仮にこう言葉にしたとする。べつに正解があるわけではないので、僕ならこうするという感じで。これが「骨」にあたる。この「骨」は表現として最低限のセットなので、これをそのまま伝えるだけでは、どうにも説明不足となることが多い。内容の魅力や価値も伝わりにくい。
そこで必要な肉を付けていくのだが、その際には「目の前の文章にツッコミを入れる」やり方をとる。たとえば先の文であれば、冒頭の「桃太郎」という表現に着目して「桃太郎って誰よ?」という自分ツッコミを入れ、その回答を書き加える。
<
p class="box">桃から生まれた桃太郎が、鬼退治に行く話。
その際、ツッコミはなるべく簡潔に、そしてその回答もなるべく簡潔に表現する。「桃太郎って誰?」というツッコミには
<
p class="box">おばあさんが川で洗濯中に拾った桃の中から飛び出した桃太郎
という回答もできるけど、いきなりそこまで詳しく説明せずに、まずは「桃から生まれた桃太郎」ぐらいにとどめる。そのあとで「桃」というキーワードに対して「なぜ唐突に桃が?」とツッコミを入れる。それに対する回答として
<
p class="box">おばあさんが川で洗濯をしていたら、上流から桃が流れてきた。
その桃の中から生まれ出た桃太郎が、鬼退治に行く話。
という感じで説明を継ぎ足していく。最終的には同じくらいの長さの説明にはなっているけれど、ちょっとずつ長くしていけば、分量や話す時間のコントロールがしやすい。
バランスを見ながら肉付けする
説明を加えていくプロセスでもうひとつ気にするのが、全体のバランスを不用意に失わせないこと。たとえば桃太郎のストーリーをいくつかのパート、内容の柱に分けるとすると
- 桃太郎が桃から生まれる
- お供をつれて鬼ケ島に向かう
- 鬼を退治して、めでたしめでたし
という感じになるとする(これも答えはいろいろあっていい)。説明を加えていって全体のボリュームを増やすとき、この3つの柱をバランスよく増やしていくのか、それとも差をつけて話のポイントを明確にするのか、という方針をあらかじめ決めておくといい。
たとえば2番目の柱「お供をつれて鬼ケ島に向かう」を話のポイントとして説明を強化していく場合、
<
p class="box">桃太郎が お供を連れて 鬼退治に行く話。
というのが骨だと考えると「お供って誰?」というツッコミに
<
p class="box">桃太郎が お供(イヌ・サル・キジ)を連れて鬼退治に行く話。
と説明を加えて、さらに「お供はどうやって?」というツッコミに
<
p class="box">桃太郎が、きび団子を使ってイヌ・サル・キジを仲間にして、鬼ケ島に行く話。
と説明を加える。なぜ鬼ケ島に行くのか?という問いへの対応は
<
p class="box">桃太郎が、きび団子を使ってイヌ・サル・キジを仲間にして、悪い鬼を退治するために、鬼ケ島に行く話。
とフォローする。ツッコミを入れて説明を増やしていくということは、話している最中に相手が疑問を持ちそうな芽をつぶしていく、ということでもある。
よく「制限文字数(あるいは持ち時間)をオーバーしちゃってるから何とか削らないと・・」と焦っている人を見かけるけれど、そういう状態のときは「要するに何を伝えるためのプレゼンなのか?」が自分の中で曖昧になっていることが多い。判断ミスで骨となる部分を削ってしまってしまうと、全体が台無しになることもある。だから基本は、削るのではなく増やす。増やしすぎてしまった場合は、骨の部分に戻って、優先して肉付けすべき箇所を見極めて、文字数や時間を計りながら増やしていく。一見回り道のようだけど、この方が締まった内容になるかと。
プレゼンの狙いと取捨選択
このやり方を、今度は「浦島太郎」のストーリーでやってみる。いきなり簡潔な文にするのが難しい場合も多いので、まずは内容を確認して、柱となる部分を箇条書きにするのがいい。今回の場合、たとえば
- いじめられていた亀を助ける
- 助けた亀に竜宮城に招待される
ぐらいはサクッと書き出せるかもしれない。でも結末の部分は、簡潔に書くのはちょっと難しいのではないか。僕なら
- 竜宮城で実際に過ごした時間以上に、地上ではずいぶん長い年月が過ぎていた
- 浦島はもらった玉手箱を開けると、おじいさんになってしまった
ぐらいは書く必要があるなぁと感じる。物語全体のボリュームから考えると、結末の部分に割く記述量はずいぶん多くなる。この最後の部分の説明量をどうするか、あるいは思い切って省いてしまうのかは、どうやって決めたら良いのか。
何をどんなバランスで扱うかは、その説明(プレゼン)によって何を伝えたいか、何を目的に行うかによって決まる。浦島太郎のこの結末部分の解釈に関しては、Wikipediaに以下のような記述がある。
亀の返礼は浦島太郎に対し短期的な快楽と引き換えに生まれ育った家庭やコミュニティの人間関係を全て失わせ、かつ(玉手箱の中身を見たいという)知的好奇心を抑制できなかったことによる因果応報の形式をとりながら、人生経験を積むことなく瞬時の肉体的な老化を経験させられた上で完全な孤独状態で別世界に放り出されることをもたらす結果に終わっている。
つまり、これは因果応報の物語である、ということだけれど、このことをプレゼンで伝える必要がある(伝えるために浦島太郎の話をする)のであれば、結末部分は時間を割いて扱う必要がある。
逆に、結末を省いて「亀を助けたお礼に竜宮城に招待されるお話」という説明にするとどうなるか。これは聴き手に「良い行いをすれば良いことが起きる」というメッセージを伝える可能性を持っている。もちろん、べつにそれでも問題にならない場面ならそれでいい。そのプレゼンは何を狙いにしているかを意識して取捨選択をしないとね、ということだ。
話の構造に馴染みはあるか
桃太郎と浦島太郎の2つの例を使って説明したのは、話の構造についても触れておきたかったから。わかりやすい説明、理解しやすいプレゼンの鍵となるのは、個々の要素の明快さに加えて、話の構造の明快さもある。
桃太郎は勧善懲悪の物語。多くの聴き手にとって馴染みのある形式で、先の展開を予想しやすい。また、ざっくりとした説明であっても、適切な方向に想像してもらいやすいところがある。たとえば「鬼退治に行った」と説明するだけで「鬼には勝ったのか?負けたのか?」とか「なぜ鬼を退治しなければならないのか?」という疑問を持たれにくい(もちろん絶対ではないけど)。
それに対して浦島太郎は、結末の部分に意外性がある。特に前半で「亀を助ける」という善行があるだけに、結末部分の説明が雑だと、なぜそんなひどい仕打ちに?という疑問を持たれる可能性が高い。因果応報の構造になっている、ということを明確にする説明が求められる場合がある。
通販のCMなどでは「困った場面を具体的に見せたあとに、それを解決する商品を紹介する」というパターンが王道。聴き手の頭の中に「きっとそういうパターンなんだろうな、この後に解決策が示されるんだろうな」というのがあるから、情報を整理しつつ安心して聴ける。
自分が説明したい内容、やろうとしているプレゼンが、そういう「よくあるパターン」に沿っていれば、予定調和的にはなるものの、大胆に内容をカットしても伝わりやすい。逆に意外性のある展開の場合は、そうした話の構造が理解の妨げにならないよう、説明を厚くしたり構造を見えやすくしたりする必要が出てくる。
骨を作る手順とその意味
簡単に「まず骨を作りましょう」と言ったものの、ここまで書いたように、その作業は簡単ではない。以下のリストでいうと、2や3を考えつつ1を行い、4から5に移行していくようなことをする必要がある。
- 内容を理解する
- 内容の構造に注目する
- 伝える目的を明確にする
- 目的に合った内容や伝え方を選ぶ
- 条件やバランスを見て形を作る
ただ、きちんと骨の部分ができれば、プレゼンの準備は半分くらい終わったようなものだと思う。説明を増やしたり資料を作ったりするとき、何をどれくらい、どういう方向で手をかければいいのか、いつでも立ち返れるので無駄に迷うことがない。時間が予定より短くなったり、あるいは長くなったり、最後に簡単にまとめる必要が出てきても、頭の中が整理されているから対応はしやすいはず。
あと、3の「伝える目的を明確にする」は、目的とは何なのか、どうすれば明確になるのか、という難しさがあるんだけど、そこはまた別の機会に。あ、僕の電子書籍「プレゼンのプ」にも書いてあるんで、よかったらどうぞー。