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デザインの前の言語化

サイトのビジュアルデザインを提案するとき、複数案用意してクライアントに選んでもらう、というやり方が僕は好きではありません。提案としてベストなものは1つであって、複数を並べてどっちがいいかというのは、まだ方向性が定まりきっていないということ。ビジュアルを比べながら方向性を検討する作業であればともかく、最終イメージに近い精度のものを複数作成して・・・というのは、できる限り避けたいと常々思っています。

とはいえ、実際にはそういう要望も多いです。とにかくビジュアルを見ないと話ができない(と思い込んでいる)人も多いですし、ビジュアルを見た途端に今までとまったく違う話が始まることもしばしば。デザイナーはクライアントに対して複数案を提示するのが仕事だ、と言って譲らない人もいます。なので、こちらのやり方だけを通すわけにはもちろんいかないんですけど。

僕のデザイン的な関心が、ビジュアル表現より全体的なところにある(ビジュアルはデザインの一部)せいかもしれませんが、制作時はギリギリまでグラフィックツールは手にせず、サイトのコンセプトやユーザーに伝えたい感情を理解することに時間をかけます。クライアントと話して、コンセプトを言葉にし、その言葉をビジュアルにつながるまで磨いていくんです。クライアントからは「こういうテーマで」というのを提示されていても、それが自分の言葉になっていないと、手を動かしはじめても結局行き詰まってしまいます。だから腑に落ちるまで言語化していきます。

言語化の過程は、何か他のものを見たり聞いたりという「自分ひとり」の作業も多いのですが、クライアントと言葉を交わしながらということもあります。それに付き合うクライアントは「ビジュアルを決めるのに何でこんな言葉のやり取りが続くのか」と思ってるんでしょうが、悪いなとは思いつつも、やっぱりこの作業は外せないのです。

単に好みなのか、思い込みなのか、一枚の絵より、長い物語より、理路整然とした説明より、短い言葉で言い表すのが、僕としてはいちばん確か。なんというか、細かい部分をバーンと通り越して、直接響く言葉がほしくなっちゃうんですよね。言語化の過程で必ずそういうものにたどり着けるわけではないですけど、常にそれは目指していきたいというか。