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学習サイトをデザインするときに大切な三者の視点

僕は日本語学習に関するサイトの制作を手がけることが多いのですが、その際に気をつけることって、利用者・Web制作者・運営者の三者の視点からまとめられるなぁと思ったので、その概要をメモっておきます。e-Learningという言葉は好きじゃないので「学習サイト」って書いてますが、なんか他にいい呼び方ないかなぁ。あとタイトルがアレっぽくなったのはご愛嬌。

一つ目は「利用者」の視点。僕の今までの経験では、学習者を直接サポートするようなサイトをデザインすることが多かったので、利用者=学習者として説明します。まず何といっても、学習者にとって「使える」サイトである必要がありますよね。そのためには、どんな学習者の、どんな学習の、どんなプロセスのどの部分をサポートするサイトなのか、そこをしっかりと決めて、それに適したものをデザインすることが大切。

言葉で書くと当たり前に感じるんですが、実際きちんとやろうとすると超難しい。依頼主であるクライアント側も、学習者のことや、学習環境、学習スタイルについて十分に理解してるとは限らないんですよね。あるいは、理解していると思っていたけど実際に調査してみたら違ってた、ということもあります。

当初の依頼内容が、僕とクライアントで話をしていくうちに変わっていったりもします。ここがブレていると絶対に良いサイトはできないので、僕はしつこく質問します。授業で使うサイトを制作する場合は、どんな授業なのかを細かく聞いて、サイトが役立ちそうだと自信を持てるまで考えます。ときに授業内容を僕から提案する場合もあります(笑)

二つ目は「Web制作者」の視点。例えば、PC向けなのか、モバイル向けなのか、あるいはプリントアウトして使う、ダウンロードして使うなど用途に合ったデバイスを選ぶこと。表現力だけでなく開発や運用のコストを考えて実装方法を選ぶこと。あと「今は紙の辞書の利用が多いけど数年後にはスマートフォンがメインになる」といった、現状だけでなく近い未来の変化を考えて判断することも大切です。まぁ、どれもWeb制作者なら普通に考えるべきことなんですけど、クライアントは詳しくない分野だけにツッコミもできないので、公開後に問題が表面化しやすい(しかも取り返しがつかない)んですよね。Web制作者から見てもスマートなサイトになっているかどうかって、けっこう大事です。

三つ目は「運営者」の視点。学習者にとって使い勝手が良く、技術的にも適切なサイトがデザインできても、運営側に評価されないものであれば世に広まりません。プロジェクトの目的に合わないとか、プロジェクトがすでに持ってるデータを有効に生かせないとか、あるいは運営側の組織としての強みを生かせないサイトは、たとえ学習者の問題を解決する可能性を持っていても、実現させることができないわけです。

例えば大学の先生から「この研究データを使った学習サイトを作りたい」と相談があって、対象となる学習者のことを考えていくと、学習者に必要なのはその手のデータではなくて他のデータだった・・・みたいなこともあります。じゃあそのデータは諦めて他のデータを集めましょう、というわけにはいかないので、手持ちのデータを生かす方向性を考えるわけですが、なかなか苦しかったりもして。これは極端な例ですけど、サイトのために別のデータを追加で作ることは珍しくありません。例えば、語彙のリファレンスサイトを作っていて、フリーワード検索を実装することになったとき、個々の語彙の別表記とか読みがなでも検索できるようにメタデータを追加する、というようなことです。クライアントは「手持ちのデータを渡せばOK」と思っていたりするので、追加作業があると言うとびっくりされたりもしますね。

あと、事業評価をどうするのかって、先に考えておきたい問題なんですよね。実際に学習者に評価されるかどうかとは別に、予算を決めるエライ人に評価されるようなデータを出せることも、事業の継続の面では重要ですよね。アクセス解析をするのは当然としても、どの指標が使えるかは、分析例がたくさんあるECサイトとは違うので、けっこう悩みます。単なるページビューで価値を決められちゃうと、よほど広報ルートが強力なケースじゃない限り苦しいですから。学習者にインタビューして質的なデータとセットで分析するとか、こんなレポートを書いたら提案が通りやすいんじゃないかとか、どんどんクライアントの領域に侵入する結果になります(笑)。

という感じですが、今回は「学習サイト」という切り口でまとめたものの、本質的には他のジャンルのデザインと同じ話なので、別に特殊な話ではないんですよね。ただ、技術的な話を抜きにすれば、クライアントには案件ごとに同じようなことを説明しているので、読みやすい形でまとめられたら、僕にとってもクライアントにとっても有用かなとは思っています。ということで、今回はそのためのメモでした。