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インターフェースのデザインの前に

先日「CSS Nite in OSAKA, Vol.27」に参加してきました。テーマは「インターフェース」ということで、矢野りんさんと秋葉秀樹さんのセッション&ワークショップという構成でした。

インターフェースというと領域は広いのですが、今回はスマートフォンのアプリに焦点を当てたもので(事前には告知がなくて驚いたけど)、前半は矢野さんによるユーザーインターフェースの主なパターンの整理と解説。どういう話だったか知りたい方は、矢野さんの著書「ウェブデザインのつくり方、インターフェイスデザインの考え方。 」を読まれるといいかと思います。僕が過去に読んだ本だと、オライリーの「デザイニング・インターフェース 」も参考になるかな。

後半は、参加者が数名ずつのグループに分かれて、飲食店のスマートフォンアプリのインターフェースを設計する、というタスクに取り組みました。アプリに含まれる情報は、店舗の基本情報・メニュー・地図に加えてTwitterのタイムライン表示機能、ということでベーシックなもの。

この条件からして、主催側としては「前半で整理したインターフェースパターンを意識して画面を構成してもらう」という目標で企画したのかなと今は思うのですが、そのときの僕の頭の中は「スマートフォンのアプリってどあればいいんだろう?スマートフォン対応サイトと違ってダウンロードしてもらうことが必要だからな・・」という思考でぐるぐる。でもかえってこの脱線が良かったと今は思います。

・・・自分の経験から言って、たいていの飲食店は一度行ったきり二度と行かない。一度きりの店のアプリをわざわざインストールする気になるだろうか?となると、何度も行く機会がある、そのことが自分でわかっているユーザーがターゲットになる。ヘビーユーザーが店をもっと好きになるようなアプリ、来店頻度を高めるようなアプリにする必要がある。そのためには、単に店舗の基本情報やメニューなんて大した意味を持たない。だって店のことはある程度知っているユーザーがターゲットなのだから・・・。

そんなことを考えて、ちょうど前日に利用した居酒屋のアプリを考えていたのですが、グループで意見をシェアする段になって方針変更。僕のグループは、スワールの隈元さんと、トランスコスモスの高田さんという、偶然にも強力布陣だったのですが、お二人とも食事のできるカフェを取り上げていていました。会社近くにあってよく行く店、という設定を考えると僕の居酒屋より考えやすいし、お二人も僕と同様に「アプリとしての価値」を考えたうえでのアイディアを盛り込んでいたので、これはもう乗っかろうと(笑)設計は各人でやればいいルールでしたが、意見交換が盛り上がり、いつの間にか三人のアイディアがきれいに揃っていくような形になりました。

  • アプリを起動するのは「今日の日替わりメニュー」の確認のため
  • レジで見せるクーポンが表示できる
  • 会員登録によって席を先に押さえられる(今から15分キープとか)
  • チェックインサービスと連動で来店ポイントが貯まる
  • メニューに「いいね!」ボタンで人気ランキング
  • 場所の連絡に便利な地図URL付きのテキストの生成
  • 裏目ニューなど店からのメッセージ(ツイート)表示

僕は、個店じゃなくスターバックスのような「ノマドワーカー用のチェーン店」にこそ、このアプリが必要なんじゃないかと思っているので、これに加えて「電源席をキープしてもらうボタン」とか「近くの系列店検索」も盛り込みました。10分やそこらで考えたわりには、なかなか面白いアプリじゃないですかね。

僕は当初のワークの目的から外れ、いかに良いアプリを考えるかに時間の大半を使ってしまったわけですが、これはむしろ必然じゃないかなとも思っています。というのは、情報をどんなインタフェースに載せるかって、その情報の価値(求められる役割や位置付け)を深く理解していないと、あるべき設計が見えてこないですよね。アプリのあり方を真剣に考えた結果、与えられた情報はアプリにとってはそれほど重要ではなく、他の情報が必要だと考えた(それがないとアプリとして成立しない)わけです。時間がなくてインターフェースを詰めるまでは行きませんでしたが、これは必要な思考ステップだったと思うんですよね。

時間の都合もあって、参加者のごく一部しか案のプレゼンができませんでしたが、どの人もそのインターフェースを選んだ理由を説明していて、その理由の背景にはUX、つまりユーザーの置かれている文脈や気持ちの想像があるんですよね。僕がやったことと本質は変わらないと感じました。

僕は、適切でないインターフェースを実装してしまう一つの要因として、そういう想像をめぐらせるプロセスが足りないことがあるんじゃないか、と思っています。情報の必要性や意味は、ユーザーの視点で判断しないといけない。もちろん、ユーザーの視点が何かを知るのはとても大変なことで、ユーザーに聞いたり、調べたり、同じような体験をしてみたり、他の体験との共通点を探したりして、想像を重ねていかないといけない。そこの重要性を信じられなかったり、面倒を省く方向で設計を進めてしまうから、後になって致命的な問題が露呈するように思います。UXが大事!と口では言っていても、きちんとやれなければ意味がないわけで。

その方法の一つとして、僕はこのワークショップでメンバーが自然に行なった「自分の文脈でまずは考えて、経験をシェアしていく」ことが広く使えるんじゃないかと感じました。

  • 自分が何度も足を運ぶお店は?
  • そのお店のアプリが提供すべき情報は?
  • 何があったら嬉しい?
  • 何があったら嫌な気分になる?
  • サイトとアプリはどう違うって思ってる?

そんなことを何度も自問自答し、答えを整理してシェアして、また新しい問いを見つけて考えていく。こういうことは、時間は多少かかるかもしれないけど、まだ誰かの協力や費用が必要になったりはしないから、まず最初に始められる「設計」のプロセスになり得るんじゃないでしょうか。

インターフェースの設計も、機能の実装もビジュアル作りもまだだけど、こういうスタートなら質の高いものが作れるんじゃないかな。そんな予感がしたワークショップなのでした。