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制作のパラダイムシフト:小さく始めて早くいったん終えること

日本語学習系のサイト制作をお手伝いしていて思うのは、教師というか教育関係者はもっと「小さく始めて早くいったん終えること」を意識したらいいんじゃないか、ということです。重厚長大で汎用性の高い教科書的なものを、年単位のスパンで制作することが普通になりすぎている気がします。そうじゃなく、特定のニーズやターゲットに特化したツール的なものを作ることを意識する。教材としてのデータベースも、とりあえず範囲を限定して短期間で形にできるもので小規模に作ってみる、というのはどうか。

その理由は大きく2つあって、ひとつは「学習者はいろいろだから」。学習の動機や学習スタイルは人によって様々である、という主張には多くの教育関係者が頷くところだと思います。じゃあ実際の教材はというと、驚くほど特徴もバリエーションも少ない。どれも汎用的で王道を行く似たような教科書ばかり。パッと見て「これは面白そうな切り口だな」とか「これは自分に合ってるかも」みたいに感じさせるものが、学習意欲にも大いに関係すると思うんですけどね。

今日は本屋さんに行って料理のレシピ本を物色していたのですが、重いものから軽いもの、真面目なものからネタっぽいもの、実用性重視のものからイメージ優先のものまで、実に多様な本が並んでるんですよね。そりゃあ質の悪いものもありますよ。でもコンセプトとかターゲットが見えるラインナップだから、選びがいがあるし、当たればハマる確率も高いと思うんですよね。日本語の教材だって、そういう側面がもっと強く出てもいいんじゃないかと。学習者の心をつかむためにも。

もうひとつの理由は「作り手である教育関係者に失敗の体験が必要だから」。これは特にWebサイトやスマートフォン向けアプリといったメディアの教材に顕著だと思うのですが、作り手である教育関係者に、そういうものの知識が足りないことが多いんですよね。普段サイトを使わない・スマートフォンは持ってない、という人が、それらを日常的に使ってる学習者の心をつかむものを作れるのかというと、やはり難しい。プロジェクトと予算が年単位であることをそのままに、長い時間をかけて作って完成させて初めて、それが学習者のニーズとズレたものになっていることに気づく、ということは決して少なくないんじゃないでしょうか(失敗事例は広まらないから証拠はないけど)。

だから、数ヶ月とかいった短い期間でお試し版を作ってみて、学習者に評価してもらうところまで一通り終えてしまうのが良いと思うんです。作っている過程でいろんなことに気づけるし、見つかったダメなところを修正する、あるいは方針を大きく転換することの影響も小さく収められます。失敗の体験は大事です。失敗や悪い評価を恐れていてはダメ。普段から制作に取り組んでいる職業の人ならともかく、教育関係者にとって教材は業務のごく一部、あるいは時間外労働だったりするわけで、何かを適切に判断するには知識も経験も足りないことが多いのが事実です。作りながら学んでいくことを前提としたプロジェクト設計に、もっと目を向けるべきなんじゃないでしょうかね。

僕も自分がやってきたことで反省するところは多々あって、早い段階で評価を受けられるようにすること、失敗を素直に認めること、何度でもやり直すことを、どうサービスとして提供、提案できるか考え中です。クライアントだけが頑張っても実現しないことですからね。でも、難しいけど、これはやらないといけないなぁ。