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教材の利用文脈を考えることの大切さ

Webサイトとかスマホアプリ型の教材(いわゆるIT学習教材)を作るときに大切なことで、かつ多くの教師が忘れがちというか軽視しがちなこと。それは「その教材が使われる文脈を明確にすること」だと思う。

どんなものをデザインする際にも「誰が使うのか」とか「どのように使うのか」を考えることは重要で、そのことを教師に話しても、多くは「まぁそうだよね」と同意してくれる。で、いざ教材設計の初期段階でその問いを投げ掛けると「日本語学習者が授業で使う」程度の回答しか得られない、ということが多い。それ以上何を掘り下げる必要があるの?という雰囲気になる。

今まで、わりと人物像的なところを描こうとして失敗してきたのだけれど、最近は「いや、人物像じゃないな、大事なのは文脈だな」と思うようになっていた。そこでこの記事を見て、やっぱりそうだよねと思った次第。

「ペルソナ設計に人間像は重要ではない理由 : could」

で、話は冒頭に戻る。なぜ「IT」学習教材とわざわざ強調したかというと、従来の紙の教材とIT教材とでは、それが使われる文脈に大きな違いがあるからだ。

紙の教材は「授業中に教室で使われる」あるいは「予習復習の際に学習者の自宅で使われる」というパターンが圧倒的に多い。紙はかさばるので、常に持ち歩いて使ってもらうには「ポケット辞書」のような体裁にするぐらいしかないし、そんな利用を期待できるのは勉強熱心な一部の学習者ぐらいだろう。だから、教材開発の際に改めて利用文脈を考えなくとも良いというか、自明なものとしてスルーされがちだったと思う。

それに対して、IT教材、特にスマホで使えるようなものはどうか。もちろん授業中や自宅学習でも使われるだろうが、学習者が肌身離さず常時携帯しているスマホからすぐに使えるのだから、電車の待ち時間や、ちょっとした休憩時間や、テレビを見ている際にふと思い出して使う、などということも考えられる。もちろん、学習者が使いたくなる、使おうと思いつくような良い教材であることが前提条件。加えて、教材開発時にそうした場面、利用文脈を考えて設計すること、簡単に言うと「モバイルで使いやすく作る」ことは重要だ。

残念ながら多くの日本語教師は、学習者がスマホを日頃どう使っているか知らないし、そのことに特に関心もないように見える。もちろん教師自身もスマホは大して使っていない。これからの教材はすべてスマホで!などとは思わない(し、それは理にかなってもいない)が、それでも教材開発の際に「スマホのある場面」を一切考慮しないというのは、今やさすがに無理がある。

教室での教材使用は、教師が直接その場で学習者に強制することができるので、どんなに質が悪く使いにくい教材であっても「使ってもらう」ことはできる。せっかく作った教材が無駄になる、ということは回避できるだろう。でも、学習者の持っているスマホを最大限活用すれば、授業中以外でも使う、教師の強制ではなく学習者が自主的に使う、そういう教材にできる可能性があるわけだ。どうせ作るんなら、そっちのほうがいいよね?

そんなこともあって、僕が担当する教材開発プロジェクトは、いつも初期の段階から、担当教師にツッコミを入れては話を重ねることになる。でも結果を見ても、そこが最初に押さえられていない教材って、やっぱり学習者の支持を得られていない感じがあるんだよなぁ。