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変化の兆しを感じて変わっていくために(あるいは黒い画面の勉強会レポート)

この週末は、ターミナル(いわゆる黒い画面)をテーマにした勉強会に参加していました。ふにすの出口伸也さんの呼びかけで、こもりまさあきさんの手ほどきを受けながら、小西春輝さん、多田康造さんと僕の5名という少人数構成。いやぁ、マジで贅沢な時間でしたね。みなさん、どうもありがとうございました。

少し前からSassを勉強し始めていて、こもりさんのブログなどを参考にしながら黒い画面を使いはじめてはいたものの、要領を得ないところが多かったんですよね。何をどこまで知ったり使えるようになることを目標にするのが良いんだろうか、とか。それがこの勉強会に参加しようと思った理由です。

勉強会では、基本的なコマンドや活用方法など知識的な面も非常にためになったんですが、その延長として話題に上がった、これからのWeb制作はどうなっていくのか話がとても刺激になりました。黒い画面とお友達になることで、世界中で進められているプロジェクトの成果物(フレームワークや開発環境)を使うことができるし、これからのスタンダードになりそうな制作アプローチを体感することができる、ということがわかりました。

先に書いたように、僕はSassを使いたくて(今まで避けてきた)黒い画面に入門したわけですが、Sassを使うということだけなら、CodeKitなどのアプリケーションを使えば、黒い画面に触れなくてもいけるんですよね。僕自身もそうですが、あの文字だけの不気味なインターフェースに敷居の高さを感じている人は多いはず。なので、そういうGUIアプリケーションを選んでいる人も多いと思うんですが、いい機会だと思って黒い画面に挑戦してみたわけです。実際はどうだったかというと、とりあえず初歩の初歩として環境を作ってみるくらいなら、どこかのブログに書かれているコマンドをコピペして貼り付ける、ということの繰り返しでだいたいはいけます。たまにエラーが出たりして、泣きながらGoogle先生と解決策を探す旅に出るわけですが、その過程で気付く(わかった気になる)ことが多少なりともあります。やっぱ食わず嫌いはいけないよなーと思いましたよ。

で、何らかの便利な環境を導入したら、あとは英語のドキュメントとの格闘になります。書いてあることの意味がわからないとか、思うように動作しないことは(僕の場合)あるのですが、そのストレス以上に「ほー、こんなことが自動化される(らしい)のかー、すごいなー」ということを知れるのが大きいのです(たとえ自分の環境ではうまく動いていないにしても)。そんなスゴイ仕組みが今後当たり前になるのだと思うと、Web制作のあり方や自分の仕事も大きく変わるだろうな、変わらざるを得ないな、と考えるわけです。そう考えられる環境に自分を置くというのは、簡単そうで意外に難しい。

Web業界は変化が激しいと言われます。確かにそう思うことも多いですが、その変化のすべてが「事前に予想するのも困難なイノベーション」とうわけではないですよね。例えば、僕にとってスマートフォン+地図アプリというのは、自身の行動を大きく変えるイノベーションでした。でも、地図アプリの進化の方向は、地図を使うユーザーの多くが望むようなもの、大半が想像し期待できる内容であると思います。現在地を地図上に示してくれる、自分の向いている方向に地図を回転させてくれる、目的地までのルートを示してくれる、電波の届かないところでも見られる、細い回線でもストレスなく表示される、といったこと。もちろんそれは、技術と環境のアップデートによってはじめて可能になったことですが、いつかは実現できるかもしれないと想像できたことを多く含みます。特に、僕らWeb制作者のような、技術にある程度の知識がある人たちにとっては。

ひとりのユーザーとして「これ、こうなった方がいいよね」と思いつけるものは、技術にある程度理解がある僕らWeb制作者であれば、より容易に思い描けそうです。でも実際は、自分の見えている範囲のツールや技術やワークフローに縛られて、ユーザー視点での「こうあるべきだよね」という発想に至るのを難しくしてしまっているような気がします。広告なんかないほうがいいよ、モバイルのときは気を利かせてほしいよね、何よりコンテンツが大事だよ、といった本音が、クライアントへの説明や実装の困難さという現実に上書きされて「そういうものだよ、仕方ない」で処理されてしまうというか。そんな心の状態が当たり前になると、本当に大きな変化を目の当たりにしたとき、身動きが取れなくなってしまうのではないかという恐れを僕は感じています。

今回の勉強会で触れることのできた「いま世界で起こっていること」がスタンダードになるのには、多少なりとも時間が必要でしょう。黒い画面専用だったものが、GUIで操作できるアプリケーションになり、あちこちのブログに取り上げられ、ドキュメントが日本語化され、書籍が出て、セミナーが開催されるようになってはじめて、大多数の制作者の知るところとなるのでしょうし、多くのクライアントがその価値を理解するのはさらに先になるでしょう。そうやって情報が整備され摂取しやすくなるまで待つというのも、一つの学びの方法です。でも、だんだんと市場の先行者利益はなくなっていきますし、後に残されるのは価格やスピードといった付加価値を必須とする、厳しい競争の世界です。パイはすでに小さくなっていたり、他の既存のパイが消滅したりしているかもしれません。この業界の進化の柱は自動化ですから、パイは時間とともに縮小していくと考えるのが自然ですしね。

使える時間は限られているので、すべてにアンテナを張り巡らし挑戦することはできません。でも自分なりに見定めてやっていかないとマズいということを、今回の勉強会で強く感じました。諦めず継続的に黒い画面とつきあいつつ、ときにGUIの便利なツールも頼りつつ、近い未来に何があればいいのか、何が起こればいいのかを「ユーザーとして普通に」思い描くことを忘れずに、といったところでしょうか。書くだけなら簡単ですが、やるのは楽ではないと思います。でも、大きな変化は突然にはやってこない、変化の兆しを見つつ動けるのだと考えれば、まだ恵まれた業界で仕事をしているのかなとも思います。

よし、ちょっとずつ、がんばろ。

追記(2012.12.19):同じ参加者のみなさんもブログを書いてくれているので、あわせて読まれると良いかと。