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2つのセミナーイベントが教えてくれたこと

この土曜日は東京(CSS Nite LP, Disk 28「直視しない人が多いけど、軽視できない仕事とお金の話」Pt.1)、その前の週の日曜は神戸(CSS Nite in Kobe, Vol.2「デザイン再考(サイコー!)」)と、連続してCSS Niteに参加してきた。

僕にとってのCSS Niteは「いま自分は何を勉強したらいいか」を考えるための大切なモノサシのひとつ。僕は講師や研究開発的な仕事もしている関係で、たとえば制作会社にいる人たちに比べて、コードを書いたりグラフィックを作ったりといった純粋な制作仕事に割ける時間が圧倒的に少ない(でも一定レベルで制作ができないと仕事が成立しないと考えている)。そのため「どうしたら時代遅れの人にならないか」ということは常に気にしている。手を動かす時間の蓄積による差は埋めにくいけれど、見当違いのところを見ているような状態は最低限避けたい。だからCSS Niteで扱われるテーマや登壇者の話は、そのための指針になっている。

イベント参加後はできるだけ早くブログに感想を書くことを意識しているのだが、今回はちょっと悩んで書き上げるのが遅くなった。というのは、神戸の方はどのセッションも「これをやらないとヤバいなー」と大きく慌てるようなことが少なく、最後まですーっと聴けてしまったからだ。

これは個人的には喜んでいいことだと思う。すでに勉強していることが語られたのだから、自分の勉強の方向性は間違っていなかったと(ひとつの判断として)思えるからだ。もちろん、知っていることと実際やれることは違うし、ましてや人に何かを教えられる理解とは全然違う。プレゼンのされ方を見ても、どちらかといえば概論や基礎扱いという感じだったので、知ってたぐらいで安心していいわけではまったくない。たとえば鷹野さんのフォントの話を聞いて、小林章「欧文書体 ―その背景と使い方」を読み直そうと、本棚の目立つところに置き直したりもした。

ただ、セッションに設定されていた落とし所を冷静に考えると、少なくとも今回は自分はターゲット層ではなかったのかな、と感じる。そもそもターゲットじゃない人がイベントについて後日コメントするのって、的外れで迷惑な要求にもなりえる。実際、どのセッションも説明としてはわかりやすかったし、フォローアップも含め参加者が次に学ぶべきことの指針も出されていて、特に大きな問題は感じなかったどころか、良いイベントだったと思う。しいて言えば、昼前から夕方まで通しでセッションを組まれると、集中力を維持するのがやや辛いかな、ということくらい(判断が難しいけど、全員45分ぐらいが良い落とし所だったのかも)。

2007年から定期的に参加しているCSS Niteに対して、今回たまたまとはいえ、こんな感想を持つようになるとは自分でもけっこう驚いている。心なしか、CSS Nite初参加という感じの人たちが多いような気もして(こういうイベントにはよく参加されるんですか?と聞かれることも最近増えた)世代の移り変わりもあるのかもしれない。少ないなりに自分にも蓄積があるのだとしたら喜んでいいのかもしれないが、ちょっと複雑な思いを抱きつつ、ブログを書けないまま翌週の東京の方に参加した。

東京のLPの参加動機として、自分は特に「これについて知りたい」というのはなく、単純に登壇者の4人に魅力があったということに尽きる。このテーマで具体的にどんな話をぶつけてくるんだろうか。そういう好奇心から、機会を逃すまいと光の速さで申し込んだ。

角掛健志さん、高畑哲平さんのセッションは、大筋で事前に予想していた感じの展開、期待通りの質だった。それは、僕が過去にお二人の話を聞いた経験があることや、日頃のソーシャルでの発言を見ていたからで、予想に近かったから満足度が減ったということは全くなかった。聴き手のことをしっかりと考え、随所に工夫されたプレゼンだったので、初めて聴いた人も十分に得るものがあったんじゃないかと思う。

あと、自分が日頃思っていることをセッションで代弁してくれたところもあって、その話を切り口に参加者と懇親会で濃い会話ができたから、その点もすごくありがたかった。今回は特に参加者も魅力的な人たちが揃うんじゃないかと思っていたので、セッションにうまく助けてもらえた格好だ。

森田雄さんの話は、実際の会社の経営方針の話なので、内容自体は特に予想せずに臨んだ。具体例としてはいささか極端な部類だけれど、森田さんの仕事に対する姿勢が強く反映されていることがよく伝わってきて、エッセンスは十分に自分にも生かせると感じた。森田さんは、僕がこの仕事を始めて最初にWeb系セミナーで話を聞かせてもらった人なんだけれど、当時感じた真摯なところがまったく変わっていなくて、僕も初心を忘れないようにしないとなぁと思った。

林千晶さんは、今まで一度もお話ししたことがなかった(セッションは昔一度だけお聞きしたことがあるけど)ので、予想がつかないという点ではいちばん楽しみにしていた。内容は、切り口自体は良かったと思うのだが、前半の「自分がしてきたこと」の話が、会社の実績紹介に寄りすぎていた気がした。その結果、後半の主題である「価値をお金だけで判断しないこと」や「わらしべ長者の視点がなぜ大切か」という話が、林さん自身のされてきたことと効果的にリンクせず、その魅力を感じ取るのを難しくさせていたと思う。

僕は事前に「ドーナツの話」や「未来を予測しすぎないこと」に関わる林さんの記事をある程度読んでいて、自分の実感とつながるところも多く見えていただけに、もう少し深く掘り下げた話が聞けると良かったというのが正直なところ。特に今回のイベントは、そういう情報収集を日頃からしている人の参加の割合が高い気がするので、これはターゲット違いではないと思うのだけれど、どうなのだろう。またしても懇親会で直接質問ができなかったことも悔やまれる。

東京のLPは、神戸のような基礎知識のレクチャー主体の切り口と違い、登壇者の人としての魅力に食いついていくことがより求められる構成だった、と自分では勝手に思っている。他の参加者の様子を見ていると、会社経営的なノウハウを期待していた人も多かったようだし、結局はコミュニケーションです的なオチ(だと僕は感じた)は確かにありきたりに映るかもしれない。でも実際、多くのWeb界隈の人たちにとって重要なのは、普段の自分のコミュニケーションの再考ではないか。そしてその答えは、オフレコの秘訣として語られるものではなく、登壇者のまなざしから各参加者が感じ取る「形のないもの」だと思う。

だから、ある意味では参加者に一定の「相手の話から価値を引き出すスキル」を求めるチャレンジングなイベントに(結果的にかもしれないが)なっていたと思う。そこは賛否両論あるだろう。でも、たとえば神戸のような形式(というかほとんどのセミナー)より良いとか悪いとか言うつもりはまったくない。ただ、こういう機会がなければ、登壇者のような人たちと個人が直接会って話をするのは難しいと思うし、こういうテーマについて、初めて会った人たち同士で深く意見を交わすことも難しいと思う。だから僕にとっては、とても価値あるイベントだった。

理解できる喜びも大事だし、ほっと安心することも大事。でも理解できないことを知ることも、モヤモヤとした気持ちになることも、また違った意味で大事なんだと思う。

両イベントの関係者のみなさま、今回もありがとうございました。