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レビュー:価値ある実践事例集としての「Webデザイン・コミュニケーションの教科書」

本が出るというニュースを聞いてすぐウィッシュリストに入れていた「Webデザイン・コミュニケーションの教科書」。出版社のモニタープレゼントに当選した関係で、発売(2014年9月15日)より前に手に入れることができました。わーい。一気に読み終えたので、レビュー代わりの感想文を記しておきます。

この「Webデザイン・コミュニケーションの教科書」の著者は、株式会社ツクロアの秋葉秀樹さんと秋葉ちひろさん。二人は友人ということもあり、またWebだけでなくアプリや業務用ハードウェアのインターフェースまでを手がける分野横断的なデザイナーということもあり、どんな内容に仕上げてくるのかとても楽しみにしていました。実際読んでみて、期待通りの価値ある本だと思いましたね。

この本の読者対象として、以下のような人たちが挙げられています。

  1. 会社に入って1〜2年目のWebデザイナー
  2. DTPやグラフィック関連など紙媒体を主としたデザイナー
  3. 会社勤めだが、他の会社に転職を考えているWebデザイナー
  4. 独立を考えているWebデザイナー

内容をざっくり僕なりの解釈でまとめると

  • 指示通り作業するだけのデザインからの脱却
  • 紙とは異なるWebに合ったデザインアプローチ
  • クライアントや開発メンバーと協同的にデザインする方法
  • デザイナーでも知っておくべきシステム側の技術の概要

というところですかね。上記対象に該当するような人たちはぜひ読んだ方がいいし、僕自身も駆け出しのころに読みたかったな、と思わせる内容でした。というのは、これまで実際に自分が経験し困らされたことや「そうそう、そこは気にしながらデザインするよねー」というポイントに、いくつも触れられていたからです。Webの仕事の経験がそれなりにある人は、きっと同じような感想を抱くんじゃないでしょうか。

書名は「〜の教科書」とあるんですが(これはシリーズだからですかね)、定番のセオリーが体系的にまとめられている「テキストブック」というより、著者が自分の経験を紹介しながらデザインアプローチの本質を伝えていく「講義録」のような印象を受けました。会社の先輩デザイナーが後輩に教えているような、そんな雰囲気です。実例がとても多くて、著者と話しているような気分になりましたし、この内容について著者と話をしたくなりました。

思うに、Web技術の社会的な役割がどんどん深く広くなっている現状では、こういう本がより必要とされるのかもしれません。たとえ制作会社にいるWebデザイナーであっても、一人で与えられた業務だけをこなすような日々では視野も狭くなりがち、と言えるのではないかと。まぁ、僕は制作会社の勤務経験がないので推測ですけども。

分野横断的に活躍する著者だけに、よくあるWebデザイン本よりも広く多様な話題を「体験談つきで」扱っている点が、この本の特に良いところだと思います。ただし体系的・網羅的にまとめているとまでは言えないので、偏りなく学び、またトピックをより深く理解して実践するには、それぞれの専門書などに手を伸ばすことも必要でしょう。学ぶきっかけとして、この本から入るのもおすすめです。その意味では、巻末にオススメの書籍リストとかがあると良かったかもしれません。

少し残念な点も挙げておくと、内容はとても面白いし意欲的な試みで評価できる一方、書籍としての読みやすさには難があると感じました。嬉しさのあまり一気に読もうとしたから余計かもしれませんが、テンポよくは読み進めていけなかったです。

本文は口語的な表現を多く使い、かっちりした論展開にはしていないため、堅苦しい印象はありません。そこは狙い通りだと思うのですが、一冊の本として(あるいは章単位で)通して読むとなると、冗長な印象が勝ってしまうように思います。また、限られた紙幅で多くの話題に触れようとしているぶん、説明が省略気味になっています。読み手が自身の実務経験や知識で意味を補わななければ「瞬時には」文意が読み取れない箇所があり、その引っ掛かりがテンポの悪さにつながっている気がしました。

ここは「コミュニケーション:クライアントや開発メンバーとの共同作業に関すること」と「表現・技術:グラフィックの作り方や技術の解説」とで2冊に分けたら、丁寧に書ける余裕が出て良かったかなぁとも思うのですが、前者は地味であんまり売れないのかもしれませんね(笑)。僕もいま(Web業界向けではないですが)前者にあたるような本を書いてるので、難しい問題だなぁと思っていますが・・。でもコミュニケーションって大事なんですよ、ほんとに。

もうひとつ、図版の配置が特殊なのも読みにくさを生んでいるように思います。図版が本文での言及箇所と離れたページにあることが多く、段組を崩すようなトリッキーな配置も見られ、本文を読む際の邪魔になっている感があります。図版に番号が振られていないため、本文では毎回のように「次のページの右側の図のように・・」と記述するしかない形にしているのは謎です。イラストはかわいらしくて素敵ですし、インターフェースの説明などには図版がありがたい。でも概念を示した模式図に関しては、かえってわかりにくいと感じるものが多かったので、これは削って本文を充実させた方がいいかなぁと思いました。

ということで、本としての体裁には少しツッコミどころもありますが、内容としては類書のない、とても価値あるものだと思います。広い意味でのデザイン&コミュニケーションという着眼点を含め、著者の意志を感じられる本です。読者対象となっている方はもちろん、Webデザイナーと協業するエンジニアやディレクターの方も、読まれるといいんじゃないでしょうか。そして、内容について社内でディスカッションするといいかもしれませんよ。

秋葉秀樹さん、秋葉ちひろさん、執筆おつかれさまでした。そして素敵な本を出してくれて、どうもありがとうございます。またこういうテーマでもゆっくりお話したいですね。