学びをデザインするICTサポート環境を:2019PCカンファレンス参加記
- 2019年08月14日
今年もPCカンファレンスに参加してきました。昨年で皆勤(謎)が途切れてしまった分科会での発表ですが、今年はきっちりやりましたので、スライドを公開しておきます。発表タイトルは「LMS未導入の現場でICT活用インフラをどう作るか」です。加えて発表論文も公開されていますので、よかったらそちらもどうぞ。
内容としては「最低限のLMS的な環境であれば、無料のウェブサービスを使って構築できるよ」という実践報告なのですが、これはLMSすら用意されていない劣悪な現場で困っている教師への「あきらめないで!」というメッセージであって、そんな劣悪な環境を「やり過ごそう」とするものではありません。ちゃんとした環境が用意されていることが当然望ましいし、学校側に要求していくべきです。ただ、LMS(というかICT)を理解していない教師が現場の多数派では、その要求はなかなか通らないでしょう。なので、無料のウェブサービスでLMS的なものの良さを知ってほしい、ということで発表しました。
PCカンファレンス期間中、いつも通りハッシュタグ #2019PCC を付けてせっせと書いていたのですが、その中でこういうこともツイートしました。
ICTを学ぶことって、PC操作を覚えることではなく、この20年で急速に進んだ社会変化にどう向き合っていくかを学ぶこと。学生も教師も職員も、この学びはいわば義務みたいなものだと思ってほしい。 #2019PCC
— sunami hokuto (@shokuto) August 6, 2019
あえて「いわば義務みたいなもの」と強めに表現しているのは、いまだに多くの教師が「授業は問題なくできてるんだから、ICTを学ぶことなんてオプションにすぎない」と思っていて、忙しさやプライド優先でICTの勉強を避け続けている(何か強制しようものならキレる)現状があるから。
オレは石器時代が好きなんだ!と言うのは勝手だけど、学習者に石器時代の暮らしを強要しないでほしい。だって、すでに学校の外はICTがないと回らない時代だし、そのさらに次の時代を創る学習者を育てるのが教育の仕事ではないですか。普段偉そうに学習者に勉強を強いているんだから、教師の自分がその手本を示すべきです。
僕は大学生の情報の授業(パソコンの使い方、Officeの活用、情報検索など)を担当して、かれこれ10年くらいになるんですが、学生がなかなかマスターできないのがOSの使い方。新規ファイルを作成し、適切な名前を付け、フォルダに保存する。先週作成したファイルを探して、続きの作業を保存しつつ行う。こんな基本的なことが、何週どころか何年たってもできないという学生が少なくない。なぜかというと、それをする機会が単純に少なすぎるからだと思っています。文書を作る機会が情報の授業以外にほとんどなく、その情報の授業は週1回の半年とかで終わるから、そりゃあ身につかないよなぁと。
でもそんな人も、Wordの機能なんかは授業で教えたらすぐにできたりするんですね。だから、パソコン全般がダメとか覚えが悪いとかでは必ずしもないように感じます。スマホはそこそこ使えてるわけだし。やっぱり、学習の文脈の中でパソコンを活用する、学生自身が有用性を実感する授業がそもそも少なすぎるのが、大きな問題なのではないかと。教師たちのICTへの無理解が広範囲に影響を与えていること、教師はちゃんと知ってほしいですね。
関連して、僕はこういうツイートもしています。
今やICTが学びのインフラとして不可欠な存在である以上、ICTサポートの領域は、単なるPCの操作方法だけでなく、情報との付き合い方や、学び全般の相談まで含めるのは自然なこと。だから図書館やラーニングコモンズとの協業が事業的に必要なはず。 #2019PCC
— sunami hokuto (@shokuto) August 6, 2019
これはPCカンファレンスに参加するようになって知ったのですが、大学では、大学生協や情報センター的な機関を中心に学生のパソコン活用サポートの事業が行われていて、その主力は学生スタッフが務めているんですね。僕はPCカンファレンスでは毎年のように「ドサクサに紛れて大学生の輪の中に潜入」しているのですが、それはこのサポートスタッフの学生の話を聴くのが面白いからです。みんな本当に熱心に悩みながらやっていて、心から応援したくなるのですよ。今年のPCカンファレンスでも、サポート事業に携わる人たちのお話をいくつか聴いたので、それを受けたものが先ほどのツイートになります。
僕はこの数年、担当授業の関係で図書館情報学の教科書を扱ったり、ラーニングコモンズ絡みの仕事を手がけたりしていて、その界隈の話を見聞きする機会に恵まれています。そこでの学びにはPC活用サポートとの共通点も感じるので、学生スタッフに「ちょっと視野を広げて参考書とか読んでみるといいよ」などと伝えることも以前からありました。
でも今回のPCカンファレンスで確信しましたよ。知見をかじる程度じゃなく、ガッチリと協業の道を探ったほうがいいと。図書館やラーニングコモンズといっしょになって、総合的に学びをサポートする事業が、学生はもちろん、教員にも、学校全体にとっても必要な時代なんだと。
ICTのサポートが必要なのは学生だけでなく教師や職員も同じ。きっとみんな困っていて誰にも相談できてないんだよ。学外に頼れる友人や場所がある人はまだいいけど、大半の人は自分をアップデートできないままやり過ごしている。 #2019PCC
— sunami hokuto (@shokuto) August 6, 2019
先に書いたように、学生のICTスキルを育てるためには、ICT前提の学習環境が当たり前にならないとダメ。そのためには情報系だけでなく、すべての教師がICTを学んで、授業をデザインできるようになる必要がある。でも、放っておいても教師の多くはうまく学べないから、サポートしないといけない。で、そのサポート役って、けっこう広範囲なスキルが必要なんですよ。図書館司書、ラーニングコモンズ、PCサポートの人たちがお互いの強みを生かして協業して、そこに学びのデザインができる教師(まぁこの人材は希少価値高いけど)が加わった組織的な体制。これめっちゃ強くね?鬼に金棒じゃね?っていう。
組織の構成員が増えると大変な部分は当然あるけど、そうでもしないときちんとした事業予算は得にくいし、何より個人の頑張りで対応できるような話でも段階でもないんですよ。大学側も本気を出してほしい。もう普通に、生きるか死ぬかの瀬戸際です。
そんなことを感じさせられた今年のPCカンファレンスでした。あ、来年の開催地はどこなんだろう。
追記(2019.08.17)
学びの知見はどうやって関係者で(事業における業務として)シェアしていくのか、ということで以下のようなツイートを加えました。
大学で生協とかがやってるICTサポートの学びは、たとえば「レファ協」 https://t.co/6FBuExfLmC みたいな形で全国で知見を共有できると、スタッフの業務コストも下がるし、サポート受ける側の学生も検索できる人は検索するしで、とてもいいんじゃないのかな。 #2019PCC
— sunami hokuto (@shokuto) August 15, 2019
そういう仕組みは誰がどうやって構築するの?という点に関しては、ウェブサービスをうまく使うとか。たとえば「esa」 https://t.co/AxIwTzg3Q2 なんかだと(僕自身はまだ使ったことないんだけど)アカデミック向けには無料なようだし、どっかの大学の情報センター的な人が始めたらできそう。
— sunami hokuto (@shokuto) August 15, 2019
レファ協(レファレンス協同データベース)って本当に良い取り組みだと思うんですよね。これ、ICTサポートでもどっかの大学で(ゆくゆくは全国展開で)やりませんか。無料で使えそうなツールもあるようですし。きっとインパクトのある取り組みになるはず。僕もこういう系なら具体的にお手伝いできると思います。