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唐揚げのレモンはもういいから、そろそろ次に進もう

PCカンファレンスって、僕のように情報系の専攻でも授業担当でもないような人間でも、気軽に議論に入れる雰囲気があるんですよね(ある種独特な感じがあるのは否定しないけど)。数学の話とかプログラムの話とか、専門外でちんぷんかんぷんな分科会のセッションであっても、そこに教育的なエッセンスが見えれば楽しめるし、そこを足がかりに話に絡んでいける。教育の本質的な部分で議論ができる、自分にとっては数少ない場。それが2003年の初参加から欠かさず参加してる理由でもあります。

なので、表層的な手法の話じゃなく、そもそも論みたいな話はわりと歓迎なんですが、それでも今年のロングセッションで「ICTは教育に必要か?」という問いが会場から出されて議論が始まりかけたときには、さすがに「おいおい今更それかよ」と思わざるを得ませんでした(ちなみに「ICT」は「IT」と同義語だとでも思ってもらえればいいです)。そのときに思わずTwitterに口走ったのが以下のツイート。

ICTってもう僕らの日常に欠かせないものになっていて、その恩恵も負の側面もある程度は体感できるレベルになっています(もちろん人によりその深さは違いますけどね)。そんなICTが教育に必要か否かなんて、もう議論する時期は過ぎてるでしょう。必要なところで使えばいいし、必要なければ使わなければいいわけで、どのくらい使うかも匙加減すればいい。レモンをかけたくない唐揚げフリークはいるんだろうけど、レモンを否定する必要はないし、たいていの人はそこまで細かいことを気にしないけど、皿ごとかける前に一言断った方が「社会人」じゃない?ってか、どうでもいいよねそんなこと、というね。

この議論、僕の初参加のときも出ていて、みんなITに振り回されすぎじゃないの?って発言した記憶があるんですけど、それから10年近くたった今もまだ言われている。当時と同じ人が同じ発言してるわけじゃないにしても、そういうレベルの話は過去のカンファレンスの議論の結果を前提として提示して、その次のレベルの話をすることに時間を割くべきだと思います。そうしないと、いつまでたっても同じところをぐるぐる回ることになる。

この手の話は他にも出ていました。例えば「やはりメールよりも手紙のやり取りの方がいい」という話とか、そんなもんケースバイケースとしか言いようがないでしょう。そこで僕が「郵便より伝書鳩の方がいい」とか「やはりのろしがベスト」とか言ったら、会場の人たちはみんな失笑すると思うんですが、じゃあ先の話とどう違うのか。環境や目的の違いを明確にせずに「アレよりコレ」とか言ってたって議論にもならないと思うんですよね。

あと「バーチャルはよくない、リアルに触れないと」というのも予想通り出てくるわけです。みんな心の中に根強くあるんですよね。ゲームやネットへの感情と同じ、漠然とした嫌悪感。嫌いだから詳しく知ろうともしないし、それが持つ様々な側面を見ようとしない。そもそもバーチャルって何を指してるんだかわからないわけですよ。逆に言えば何がリアルなのか、どこまでがリアルなのか。何でもかんでも単純な二元論に仕立てるのって、ずるいやり方です。曖昧な定義の上で、自分が気に入らない方を叩くのに都合の良い事象を並べればいいわけですから。

その話に続く形で「膨大な情報が容易に手に入る時代だから、体験しないでわかった気になりやすい」というコメントが会場から出ていましたけど、こういう意見はいいなと思いました。ICTという道具を使って教育を行なうときに、どんな落とし穴があるのかを意識できますよね。ちゃんとICTに向き合った上での意見だと思います。

自分が気に入らないものを排除する方にエネルギーを使うんじゃなくて、よりよい学びに何がどう生かせるかという視点で頭を使うべきでしょう。教育関係者におけるICTに対する理解の差は、とてつもなく大きいことはよくわかっています。でも、せめてカンファレンスに足を運んでる人たちには、次に生かせる前向きな議論の場を提供してもらいたいのです。そのためには、過去の議論の成果をきちんと形にした上で、それを前提とした建設的な議論ができるお題の設定をしてほしい。自由に意見を言ってもらう場を作ること自体は結構ですが、場のデザインはきちんとしないと、声の大きな言いたがりの人だけが得をする結果になりかねません。

来年のPCカンファレンスは東大で開催されるそうです。東大ってまだ行ったことないんですよね。今年は例年以上に良かったなぁって、1年後に言えるようなカンファレンスにしてもらいたいと思いますし、僕もそれにできるかぎり協力したいと思います。