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日本語教育のe-Learningのこれから

先の研究会で「日本語教育とe-Learning」というテーマでいろんな人と話をしました。僕は教育関係者とITプロジェクトをデザインする仕事をしているので、このテーマに関しては常に考えてはいるのですけど、ここらでちょっと思うことをまとめておこうと思います。研究的なことよりも、ちょっとビジネスの視点で。

最初に結論っぽいことを言っておくと、僕は「これからのe-Learningは個人ベースが基本になる」と思っています。

研究会では、指定したページのテキストにルビをつけたり、マウスオーバー時に訳が出るツールを紹介しましたが、今後もこういう「Web上のリソースを活用する便利ツール」はどんどん出てくるでしょう。ミニマムで、使い勝手の良いものが次々と。ちょうどJavascriptのライブラリみたいにね。これを使って個人レベルで学習するというのが、e-Learningのひとつの流れになると思います。実際、英語をそういうやり方で勉強してる人はいますよね。日本語だって似たようなことできますよ、というのが、先日公開した日本語学習ポータルサイト「NIHONGO eな」のコンセプトでもあります。

こういうちょっとした便利ツールは「無償で使わせてもらいたいな」って思うユーザーが多いでしょうから、ツールの開発と販売をビジネスとして企業がやるのは難しいかな、と思います。今のように、個人開発者がフットワーク軽く作って無料のWebサービスとして展開、というケースが今後も主流になるんじゃないでしょうか。ただ、例外として僕が注目してるのはiPadアプリ。教育現場にiPadが浸透し、学習者に配布する際のプリセットアプリとしての地位を確立できれば、商売になるんじゃないかと思います。教科書ビジネスと同じように。英語教育は確実にそうなるでしょう。日本語教育にもその波はいずれ来るんじゃないかな。ビジネスチャンスはあると思います。

ツールを使って学習する際の壁となるのが、そういうツールの存在を知らないから選べない、ということ。これは僕が研究会でも言及したことで、学習者向けには「NIHONGO eな」、教師向けにはセミナーや入門書の出版か?という話にもなりました。今は過渡期的な側面があると思うので、ツールを活用して学習するための指南ビジネスというのは成立するかな、とは思います。

では、組織としてe-Learningのソリューションを開発する、というのはビジネスとして成立するんでしょうか。昔はe-Learningと言えば、コースウェアとしての大規模なシステムが主流だったと思います。でも、あれって使いにくいものばっかりなんですよね。開発が大規模だから、当然多くの人に使ってもらわなければペイできないわけで、ターゲットが絞れなくて結局誰にとっても使いにくくなってしまう。影響も大きいから簡単に作りかえられない。良いものができれば素晴らしいけど、実際はなかなか難しい要素が多い気がします。

上記のようなちょっとしたツールの活用なら、導入コストもなく、個々人が好みのものをチョイスできる。僕が日本語教師にツールへの理解を勧めているのは、日本語教育の世界はマーケットが小さいので、大規模開発のe-Learningよりもトータルで結果が出やすいと考えているからです。

ただ、e-Learningを使う側としてはそれで良くても、ソリューションとして提供する側としては、何とかビジネスモデルを考えたいところ。教科書としてのiPadアプリの他に可能性がありそうなのは、プロジェクト管理ツールだと僕は思っています。

個々の学習行程はWebサービスやアプリを活用するとしても、クラスのメンバーで情報をやり取りしたり、学習の情報を教師が得て次の活動につなげたり、クラスやコースのマネージメントをするには、統合型のソリューションが必要になります。既存の他のツールと役割分担しながら、シェアやマネージメントの中核部分を引き受ける使い勝手の良さを持ったもの。これはまさしくプロジェクト管理ツールですよね。僕はこの種のサービスとしてはFresh Meetingが一番使いやすいと思っていますが、日本語教育のニーズを押さえたサービスが出てくれば、学校単位で契約するというビジネスモデルも可能なんじゃないかと。

僕はよくe-Learningの話をしますが、あんまり既存のe-Learningソリューションに良いイメージを持ってないんですよね。使いにくい。つまらない。押し付けられてる感じがする。だから続かない。まぁ、僕が飽きっぽいというか人のせいにしがちなのかもしれませんが。ただ、新しいWebサービスを気軽に乗り継いでいくことの良さというのも、e-Learningを考える視点としては必要だと思うんです。

移り変わりの激しい世界で長く愛される教科書的アプリを作るか、使い勝手と柔軟性を最大限に高めたマネージメント系ソリューションを作るか、そこらへんに日本語教育におけるe-Learningのビジネスとしての可能性があるんじゃないかと思います。でもあくまで使う側、学習者の視点を意識したものじゃないとダメです。もうe-Learningを押し付けられて納得するほど選択肢が限られてる時代じゃないですから。

さて、僕はどういう道を選んで生きていくべきか。それが問題だ。