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UX_Kyotoで考えたワークショップとUXの関係

UX_Kyoto に参加してきました。課題サイトに対するユーザー評価を元に、問題点を洗い出し改善策を考えるワークショップ。6時間近い長丁場でしたが、ユーザーテストなどは普段なかなかやれていないので、グループでのディスカッションも含め、楽しく充実した時間でした。関係者のみなさん、どうもありがとうございました。

僕のグループの課題サイトは、京都の観光組合が運営する、京都の旅館について解説するサイトでした。事前に見ていたときから思ったのですが、このサイトは単純に「何のサイトなのか」がわかりにくいのです。旅館の魅力について語るコンテンツが並ぶのですが、特定の旅館のプロモーションサイトではないので、具体的なサービスまで例示することが難しいのか、説明がどうしても抽象的、一般論にとどまっている印象。ワークショップを始める前から、これは根本的に問題ありそうなサイトだなぁと思っていました。

ワークショップでは、最初に課題サイトのペルソナを定め、そのペルソナのサイト上での行動を想定します。次に、実際に被験者(他グループの参加者)にサイトを使ってもらい、その様子を観察して記録、そこから問題点を探し出し改善策を発表するという流れです。

課題サイトは日本語を含む5つの言語に対応していることから、グループの話し合いで「このサイトは外国人観光客を強く意識した内容であろう」ということになり「京都に旅行を計画しているイギリス在住の若者」というペルソナを立てました。サイト構造はシンプルでナビゲーションも簡潔なのですが、ボタンのラベルから内容を推測しにくいようで、グループが想定したコンテンツに被験者がなかなか辿り着けないという結果に。当初は「指定タスクが簡単すぎるんじゃないか」との心配もあったので、結果的に観察の意味を実感できるワークになりました。

発表時に講師の浅野先生から「ワークショップの参加者が被験者なので、被験者とペルソナで条件が違いすぎたことが(ワークとしての)評価を難しくした」という指摘をいただきました。確かに、ワークショップという制限の中で今回の目標(観察法による評価と分析を学ぶこと)を達成するには、不向きなペルソナ設定だったかもしれません。ただ、コンテンツに日本語があるとはいえ、サイトのメインターゲットが日本人(というか日本在住の日本語がわかる人)というのは、ちょっと考えにくかったんですよね。ワークショップのためとはいえ、メインでなさそうなターゲットでタスクを設定するのは良いのかな?という疑問はずっとありました。その点では、このサイトは課題としてはちょっと微妙なんじゃないの?という気がしましたね。

そのこととも関連するのですが、ワークショップ中に「今回のワークの焦点はUXではなくUIだから、UXにはあまりこだわらずに」という指示があったときに、UXを強く意識せずにUIの評価をすることは可能なのか?という点も頭の中を回っていました。

設定したタスクに対する被験者の行動を記録し、その記録という客観的なデータから問題点と改善策を考える、という流れはもっともです。でもデータに対して、どこがどのように問題だと考えるのか、どのような方向性で改善策を考えるのかは、別に正解があるわけではないですよね。考え方としてはいろいろ選択肢がある。では、その選択肢のどれを選ぶかの基準はどこに求めたら良いのか。僕は、その基準は「サイトのオーナーの望むことを軸に据えた、サイト制作側のデザインしたUX」ではないかと思いました。

ただ、課題サイトを作ったのは僕らではないし、サイトのオーナーの思いも知らない。推測できる材料は、サイトのコンテンツのみ。そこから、このサイトに想定されたUXをイメージしつつ、事象を問題として取り出し、その方向性での改善策を考えました。グループのメンバー全員に明確に確認したわけではないですが、グループの合意形成のプロセスにおいて、こうした意識はある程度は暗黙の前提になってたんじゃないかと思います。それを考えると、UXを意識しないというのは、どうも腑に落ちなかったんですよね。

iPadの指でのスクロールがスムーズというのは、心地よい操作という点でUXの重要なポイントとよく言われます。でも、iPadが目指したUXというのは、アップルから詳細に説明があったわけではなくて、実際はiPadを語りたい人が各々に「これがiPadのUX」とか決めてるだけじゃないかとも思うのです。極端な話、スムーズなスクロールがアップルの狙うUXに対して不適当な実装だったり、さほど重要でない実装だったりする可能性もないわけではない。UIの問題点の大小、あるいは改善策のプライオリティにしても、目指すべきUXが何かという点が判断に大きく関わるんじゃないかと。

ワークショップの課題としてのサイトには、最初から「問題が存在する」という前提があるわけです。でも、どんな問題があるのかはチームで定めないといけないし、その問題の解決策を決めるのも僕らチームにゆだねられている。だから、僕らは判断の拠り所となるUXを恣意的に定義していることを、少なくとも意識はしないと始まらないんじゃないのかな、と思っています。

この疑問は、これまで受けてきたいろんなUX・UI系のワークショップでも感じてきたことで、何か僕の理解がねじ曲がってるのかもしれませんが、ずっと気になってるのです。どなたかアドバイスをいただけたらなぁと思うのですが。

あと、僕はふだん授業などを担当する関係もあって、ワークショップ自体の進め方にも関心があるんですよね(つまり、まことに厄介な参加者なわけです)。じゃあどんなやりかたをすれば良かったのか?という問いも同時に持っていて、まぁ今回も特に答えがあるわけじゃないんですが「ワークショップの課題はサイトじゃないほうがUXを学ぶのには良い」ってこともあるのかも、と思っています。

Webデザイナーにとって、サイトは普段の仕事の対象であり、常に意識の中にあるもの。それゆえ、考え出すときりがないくらい様々な要素を考えるし、自由に考えろと言われても日常で背負い込んでいる制約が頭から離れないものです。一見、ワークショップの課題がサイトであれば、そこで得たものは実務に直接的に生かせるように見えて良い感じがしますが、これは落とし穴でもあります。本来(と言っていいのかわかりませんが)ワークショップは、直接的に役立つものを効率的に得るための方法ではなく、発想を転換したり広げたりといった創造性を育てる方法としての意味合いが強いもの。だから、むしろ実務的な制約から離れやすい、全然違う分野のものを課題にするほうが、ワークショップの良さを生かせるんじゃないかと思いますね。ここまで書いてきたような「ワークショップにつきものの非リアルな制約条件」も、専門外のものが課題なら過度に気にせずできるというメリットもありますし。

例としては、JR大阪駅に最近できた商業施設のカオスな設計とか、懇親会まできちんと設計した勉強会のデザインとか、そういうのを課題にするのはどうでしょうかね。ノウハウは直接的にはWeb制作に生かせないでしょうけど、そのヒントを実務につなげようとする試みが大切で、そのための時間を取って主催側もフォローすれば、それなりに意味のあるワークショップになるんじゃないかと思います。

ということを、オンライン・オフラインなく発信してたら、それ面白そう!って言ってくれる人がぽつぽついましたので、何か形にできないものかなぁと思ってます。なんというか「Webとは直接関係なさそうなものから、Web制作のヒントを学ぶ試み」みたいなものを。協力したい!という方、募集中です(最近こんなオチばっかりだな)。

2012.03.13 追記:コメントのお返事として、続編記事を書きました。よかったらこちらもどうぞ。