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女子高生は宇宙人なのか

はてなブックマークで人気エントリーだということで読んでみたのが以下の記事。

34歳の私が中高生向けのWebサービスに携わって感じたこと。 « モノづくりブログ 株式会社8bitのスタッフブログです

女子中高生向けのWebサービスの開発で得た気づきを書いたものなんですが、コメント欄などを見ると、その内容そのものよりも「そういうことがあるとはよもや思わなかった」という反応が多いことに残念な驚き。

はっきり言って、参考書でみるようなユーザービリティーやアクセシビリティーとか、企業に対してプレゼンするときのような提案や企画は、彼ら彼女らには通用しないのではないかと思いました。

ガラケーユーザーじゃないこともあって、僕はこのサービスを実際に試してないのですが、この「通用しない」ってのはどういう意味なんでしょうね。僕ら開発者が常識だと思っていることがことごとく覆される、という感覚なんでしょうか。でも、多かれ少なかれ「常識が覆る」なんてこと珍しいことでも何でもないというか、むしろ自分たちの常識の範囲内で作れると思ってることに落とし穴があるんじゃないかと。

僕の学問的な専門は日本語教育学です。最近、日本語学校での教師と留学生の会話をネタにした本が流行りましたが、ああいうのは業界関係者じゃない人に「は」予想を超えてることだから面白がられたわけですよね。それと同じで、Webを仕事にしてる人の常識が他の人と違うのは別に普通でしょう。違うからこそ、そこをいかにつかまえて開発に生かしていくかが重要なわけで。いや、ターゲットをきちんと見るということが何より一番重要だといってもいいくらいです。

記事は「こういう経験をした」ということを肯定的に書いているので、良い経験をしたよね、ということで締めていいのだと思いますが、これが世間的に「いまさら何を」にならないというのは、やっぱり何だかなと感じます。大抵の提案や企画は、そんな経験もすることなく、そんな経験の重要性も感じることなく進められているということなんでしょうね。

以前大学生の女の子とした話を思い出します。彼女は携帯に大きなテディベアのストラップをつけていました。僕が「それ邪魔じゃないの?」と聞いたら、彼女は化粧品やら小物でいっぱいになったカバンの中に携帯を放り込んで言いました。「カバンの中で携帯が鳴ってるけど埋もれてて取りだしにくいとき、ストラップがでかいと見つけやすいし引っ張り出しやすい」と。

続けて彼女は「ストラップの穴がこんな位置なんてどうかしてる」と言いました。彼女の携帯は縦方向のスライド型で、ストラップの穴は下(ボタンのついている側)の中央にありました。これだと通話中に手首の位置からダラっとテディベアが垂れ下がって、カッコ悪いことこの上ないのだそうです。彼女の主張では、ストラップの穴があるべき場所は上の左右どちらかだとのことでした。ここだとテディベアは携帯を持つ手に重なるように配置されるので、見た目もかわいいし邪魔にならない、と。

彼女の主張がどれほど同世代に一般的なのかはわかりませんが、僕としては聞いていて納得できる理由だと感じましたし、もっといろんな人の話を聞きたいなとも感じました。でも携帯の開発者は違うんですよね。何かのコメント欄に誰かが書いてましたが「おれたちは日夜、端末を1gでも軽くすることに命を削ってるのに、何百グラムもあるストラップを平気で付けてて意味がわからない」ということだそうです。

ついでに言うと「**は宇宙人」という表現が僕は嫌いです。例えば、この常識が通じない相手をして「最近の女子高生は宇宙人だ」などとみんな簡単に言ってしまったりする。宇宙人って言っちゃったらそれで試合終了ですよ。理解の放棄です。あなたの開発する商品は宇宙人がターゲットなんだったら、とことん宇宙人について学べばいいじゃないですか。

記事で挙げられている項目は、僕には「そりゃそうだろうな」と言えるようなレベルのものという感じだし、実際「確かに私もゲームの説明書を見たためしがない」とか書かれてますよね。ユーザーは宇宙人でも何でもなく、開発側が自分たちに都合の良い視点を捨て切れないというだけのことじゃないですか。

開発のプロセスにターゲットユーザーの意見を取り入れること、例えばインタビューやユーザーテストを実施することは、そう簡単なことではないと思います。ターゲットユーザーの時間を借りることがまず難しかったりしますし、開発条件が厳しくて思うようにトライ&エラーを繰り返せなかったりします。でも「開発側の視点や感覚」にとらわれず「利用者の視点や感覚」に目を向けようという意識を持つことは、できないことではないはず。相手が宇宙人に見えるなら、その宇宙人っぷりを楽しんで真摯に開発すればいいんです。最終的にできることは限られるかもしれませんが、意識がないのとでは大きな差になるはず。まずは考え方からじゃないですかね。