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デザインとは何か?を考えるのに最適な入門書

最近(というか以前から)デザインについて語るブログ記事で、デザインという言葉の意味するところがひどく狭かったり、あるいは曖昧に使われていることによって、話の主旨が不透明になっているケースをよく目にします。で、そこを指摘すると、いちいち定義に目くじら立てなくても!とか言われたりするので、いやいや定義がズレてたら話が噛み合わんやろ・・とか思うことの繰り返し。

僕は、デザインとは何か?という問い自体には、たいして興味がないというか、その答えを広く大きく捉えたいと思っているので、人と少々解釈が違うのは気にしません。でも、デザインって説明しなくても自明でしょ?とかいう態度には疑問を持ってしまうし、デザインの定義を考えずに「デザインが仕事です」って言うのは無理があると思っているので、どうしても「デザインっていうのはさー」と言ってしまいます。またこれがうまく言えなくて困るんですよね。

でもこれからは、この本読め!って言うことにしました。武井正理「未経験者のためのデザイナー就活テキスト」です。

タイトルに「就活テキスト」とあるように、この本は、デザイナーとして就職したい人に向けて書かれたものです。実務経験者に比べ、未経験者は採用されにくい。なぜか。未経験者は「デザインとは何か」についての理解が浅いがゆえに、本当にデザインの仕事がきちんとできるのか、採用する側が確証を持てないから。ならば、就職活動という「セルフデザイン」のプロセスを通して、デザインとは何か、何をどうすることがデザインなのかを学ぼう。そうすることが就職には必要だ・・・そんな内容なので、これは就活のノウハウ本というより、デザイン論についての本です。デザインとは何か?について、頭を整理し、自分の実践を振り返ることのできる本です。

この種のテーマを考えるのに参考になる本として、僕はナガオカケンメイさんや原研哉さんの本をよく人に勧めるのですが、いまいちウケがよくないことも多いのです。「デザイン論って言われてもねぇ、なんか難しそうだし・・」って返されちゃう。その点この本は、就活というデザインの実務を具体例にしているため、話が急に抽象論に飛んだりしないし、自分が日頃やっていることとつなげて考えやすいと思います。なるほど、こういうアプローチで語ればわかりやすいのか、と一本取られた感じですね。主にエディトリアルの分野を意識した内容ですが、Web系や広告系のデザインにも通じる内容です。丁寧すぎるぐらい丁寧な語りもいい。

帯に「新卒・実務未経験者者でもデザイナーになれる!」とか、まるでノウハウ本を期待させる煽り文句が書かれていますが、これは無視して大丈夫。また、Amazonにも評価の低いカスタマーレビューがいくつかありますが、これも読み違えだと思うんですよね。筆者の挙げている具体例を、デザインに対する考え方を説明する導入部としてではなく、汎用的な就活のテクニックとして評価してしまったがゆえというか。ま、テクニックとして考えても大筋間違ってないと思いますけど。

他の分野のことは詳しくないのでわかりませんが、Web業界って、デザイナー予備軍や駆け出しの人じゃなくても、デザインって何?という問いを避けたまま仕事をしてる人って、残念ながら少なくないんじゃないかと思っています。デザインカンプを作ってコーディング・・みたいな作業の流れで、グラフィックやコードのような作業工程の一部だけを繰り返す仕事をしていて、視野が狭くなって目先の問題にとらわれがちになってるんじゃないかと。そういう人たちに、一度立ち止まってもらうためにも、この本を強くお勧めしたいです。こんなの当たり前じゃないか!と感じる人だって、自分の意識や考えを整理するのにきっと役立ちますよ。あと、デザインについて理解が浅いようなディレクターや営業にもいいかもしれない。社内教育用テキストとしてもオススメです。

個人的には、いちばん最後の章にあった「あなたのデザインはクライアントと一緒に作るもの」というくだりがタイムリーでぐっときました。いい本に出会えてよかった。自分もこんなふうに明快に論旨をまとめられるようになりたいです。