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石嶋未来さんとお話しするように読む「スマートフォンデザインでラクするために」

「スマートフォンデザインでラクするために」を読んだ。著者の石嶋未来さん自身も「おわりに」で書いているけれど、この本はけっこう「変な本」だと思う。

内容としては、デザインに対する考え方、サイトの設計プロセス、インターフェースに対する考察、実装段階での注意点といったことが柱。具体的なコードやパーツの作成方法を解説するのではなく、そこに至る考え方を伝えることに重きが置かれている。その方向性自体は珍しくないのだけど、そういう「考え方」を伝える本の多くが、情報を体系的に整理して整然と伝えるような構成にすることが多いのに対し、この本はそういう感じになっていない。考察の細かさや抽象度にバラつきがあるし、言葉のチョイスも独特なところがあるし、章見出しのイラストはファンキーだし、生の資料が細かい説明もなくそのまま出てきたりして、なんというか「石嶋未来さんのお話が本になりました」的な、生っぽい個人感がある。

そういう本だから、図版も多く余白のある装丁なのに「スラスラ」とは読めない。コーヒーでも飲みながら、ゆっくりページをめくって「そうだよねー」とか「なるほどー」とか「そうきたかー」とか「そこは先やろうよ!w」とか、自分勝手な細かいツッコミを入れながら読むのが適している気がする。というか、僕はそんなふうに読んだのでした。

僕は基本的に個人で制作をしているので、クライアントの話を聞いて、作って見てもらって納品するその過程で、いろいろなことを自分で考えなきゃいけないし、考えるのは自分ひとり(とクライアント)ということが多い。なので、この本に書かれていることの多くは自分も通ってきた道。自分が直面したことについて、石嶋さんはどう考えたか、どう試みたか、その結果や未来についてはどう考えているか、この本でそれを知ることができる。石嶋さんが自身の経験をプロセスから飾らずに書いてくれているおかげで(そういう書き方をすることは、とても勇気がいることだと思う)、あぁやっぱり同じように考えるんだなぁと励まされたり、異なる視点を得て自分の考えを深められたりする。それには、結果を体系的にまとめた本にある「わかりやすさ」とはまた違った価値がある。

この本のタイトルは「スマートフォンデザインでラクするために」。デザインの過程にある「考え」を知ることで、ラクができる。ラクをすることで、デザインにとって大切な「考える」時間を捻出することができる。そんなことを石嶋未来さんと話して考えてみたい人は、この本を読んでみたらいいと思う。