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Re: UX_Kyotoで考えたワークショップとUXの関係

先の記事「UX_Kyotoで考えたワークショップとUXの関係」に対して、イベントのスタッフの元山さんから丁寧なコメントをいただいたので、そのお返事と補足の記事を書いておきます。あ、なんか「ご期待にそえなくて・・」みたいに言っていただいてるんですが、そんなことないですよ。あの記事ではワークショップの具体的な体験に言及してますが、僕のイベントレポートは途中からどんどん日頃考えてることに話がそれていくので(笑)自分の考えを整理する貴重な体験だったと思っています。運営おつかれさまでした。

記事中で「UXを強く意識しない」という極端な表現をあえて使ったのには訳があります。これはワークショップがということではなく、一般的にという話なんですが、いわゆる「使いやすくする」という行為や「使いやすくなった」という結果が、無条件に(=目指すUXに立ち返らないで)良いこととして評価されがちなのには、ちょっと落とし穴があるかも?と思ったからです。

何かを「使いやすくする」ための具体的なステップとして、よく「簡単にできるようにする」とか「迷わせないようにする」という『改善』が行われるかと思います。でも場合によっては、あえて「簡単にできないようにする」ことや「迷わせる」ことが必要な場合だってありますよね。

例えば前者の例としては、ライターの安全装置はどうでしょう。子どもが火遊びをしないよう、強く押し込まないと着火しないとか、安全装置を外しながら操作しないといけないとか、そういう機能を義務化するという動きが話題になりましたよね。これは、この部分だけ見れば「簡単にできるようにする」のとは逆行するUI設計だといえますが、全体としては必要で適切なデザインです。

後者の例としては(これは雑誌で読んだ話なので正しくないのかもしれませんが)ファミレスのメニューが「わざと迷いやすくなっている」ことです。商品写真の大きさにあまり差をつけずにフラットに見せることで、客に豊富な選択肢を印象づけ、楽しく迷ってもらうことを狙っているのだそうです。これも、ある意味「迷わせないようにする」のとは逆行するUI設計ですが、店が実現したいUXに対しては適切なデザインでしょう。

サイトで言えば、本文のすぐ上にでかいバナー広告があるブログ記事なんかも、読者の利益と運営者の利益を天秤にかけた結果ですよね。何をどの程度行なうことが「改善」なのかは、細部のUIだけを見ていてはダメで、常に全体を見て判断しないといけないものです。

僕がここにこだわってるのは、ワークショップで学んだユーザー評価の手法を実際の制作で用いるとき、ここは気をつけなきゃなぁと思ったからです。ユーザーの操作の観察に力が入ってしまうと、そのUIだけに意識が行ってしまう。何というか、木を見て森を見ずになりそうだなぁと。そうならないためには、事前にどこを意識しておけば良いのかなぁと考えています。

ワークショップで僕のグループの設定タスクが「**を知る」とか「**を理解する」とかいうものだったので、先生から「そういうタスクは時間を計るのには向いていないので、それをやるならば時間の縛りなしでやる方がいい」というコメントをいただきました。確かにこのタスクは抽象的で、時間が短ければいい・長いと問題、と簡単には言えないものです。

じゃあまったく数値で扱えないタスクなのかというと、そこまで単純ではないかもと思っていて、例えば何ページ見たか?とか、どんな経路で見たか?とか、1ページ当たりの滞在時間とか、行動を細分化して見ていけばいいかもしれない。もちろん、ユーザーにインタビューしたりして得た質的なデータと、あわせて考えないといけないのですが。このへんの切り分けもできるようにならないとなぁと。

そういった「実際にやるなら何に気をつければいいか、どうアレンジすればいいか」を考えていくうちに、全体を見るという意味でのUXはやっぱり大事だし、でもワークショップのような制限された状況ではどこまで扱えるのかな、などと思ったわけです。

元山さんも「ワークショップは良かった。で終わってしまい、実際の業務にどう反映したらいいのか分からない」という意見を一般的によく耳にすると書かれていましたが、それに僕なりに回答するとすれば、ワークショップの最後に「今日、自分たちは何を学び、何を得て、何に疑問を持ったか」を参加者で(もちろん講師も含めていいですが)シェアする時間を取ったらどうか、ということです。

僕のグループでは、発表の準備をするあたりから、このワークをやっていて感じたことをメンバーが口にする場面がぽつぽつありました。みんな、ユーザー評価のやり方は何となくでも理解はして、その先にある、これを実務でどう活かすかということにも、意識が向き始めていた気がしました。懇親会でそのシェアが他の参加者と行われたのかはわからないですが、最後に10分だけでも、オフィシャルに意見交換の時間があれば、各々の頭の中を整理する手助けになったんじゃないかと思います。これは、さらに前の記事「CSS Nite in TAKAMATSU Vol.6 に参加して考えたこと」の最後に言及していることとも重なります。リフレクションというのかな、そういう振り返りの時間が、多くのセミナーで手薄なところなんじゃないでしょうか。

前の記事にも書きましたが、ワークショップって本来、答えが定まっているものを効率的に伝授するのに向く手法じゃなく、参加者による創造的な展開を期待するものだと思うんです。だから、テーマとしては「方法論を学ぶ」であっていいんですけど、最後に発展的な話が出てくることを期待して設計するのもいい。出なかったら出なかったで特段マイナスにはならないですし。いやもちろん出るようにデザインするのは大事ですけど、それは簡単なことじゃないんで。

元山さんいわく、今後は「ワークショップの開催だけでなく、参加者同士の勉強会や読書会、知識共有のための発表会なども考えております」ということだそうなので、また違った形で参加者がコミュニケーションを取れるようなワークのある場も、並行して作っていただけると嬉しいなと思いました。即効性は薄いかもしれないですけど、何かを理解して自分のものにするには時間がかかるし、誰かと話しながら深めていけるのって意義が大きいので。

懇親会で元山さんと話せなかったことが悔やまれますが、また次回にお話できるのを楽しみにしてます。何か僕でも協力できることがあれば、お手伝いさせていただきますので。

以上、長大な返信でした。