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失敗も正直に語ることが大切

PCカンファレンスのセッション等を聞いて考えることも多かったので、いくつか記事にしてまとめておこうと思います。今回は、大阪工業大学の川邉良輔さん・小林直也さん・中西通雄さんの「講義支援用 Twitter アプリケーションシステムの実装と評価」というセッションについて思ったことを。

この発表は、超ざっくり言うと、授業中に学生からTwitter経由で質問を募集し、それを教室のサブスクリーンに表示することで、教師は学生の反応を見ながら授業を進めるという試みの報告です。

教師とのコミュニケーションを促進する狙いで始めたが、なかなか利用が進まず、独自にアプリケーションを開発・改良しては利用状況を調査する・・という試行錯誤の流れが語られたのですが、面白いのは、結局発表の最後まで「うまくいっていない」という話が続いたということです。質疑応答に向けたまとめも、今後やろうと思っていることの紹介と、どうやったらうまくいくかのアドバイスを求めるような感じでした。

僕は会場でも思わずコメントしたのですが、こういう「失敗したことも含め試行錯誤を隠さずに語る」というのは、本当に大切なことだと考えています。

PCカンファレンスでは事例報告がよく行なわれますが、所属組織のイメージダウンを恐れてか、当たり障りのないキレイな報告が多いんですよね。嘘は言ってないんだろうけど、うまくいかなかった部分は巧妙に隠したんじゃないの?という感じがすることもしばしば。

例えば「学内SNSを導入して学生のコミュニケーションが活発になった」とかいう発表が何年か前にあったんですけど、サーバー環境とか技術面の話が多く、ざっくりとしたアンケートの結果だけで「うまくいきました!」と言われても疑問が残るんですよね。だって、コミュニティ専用SNSっていうのは当時も言われていましたが、あまり成功事例を聞かないからです。成功事例には、成功につながる要因があるはずです。技術的なことや、環境や条件、教師や学生の取り組み姿勢などいろいろ。どこでも単に導入したらうまくいく、というものではないと思うんです。

気になったので、発表後に「なんかいろいろ苦労されたこともあったんじゃないですか」とこっそり聞いたら「いえ、特にないです」って返されちゃったんですよね。うーん、言えない立場というのは分かるけど、こんな発表が他の人たちに役立つのだろうか、と思ってしまいました。

僕に「所詮、事例発表は組織の宣伝と実績の積み上げでしかないよ」なんて言いきる友人もいたりするのですが、やっぱり聞き手としては、自分の実践に活かせるような発表を聞きたいものです。その際にポイントとなることとして、僕は2つのことがあると考えています。

1つは、どんな教育的思想のもとに何のためにそれをやっているのか、を明らかにした発表であること。PCカンファレンスのセッションの中には、僕が全く理解できない理系の話も多いです。でも、たとえそうした内容であっても、教育学的な文脈というか、「こういう学びを実現するためのシステムである」と説明してもらえると、内容は専門外であっても「学び」という共通の土台で理解したり意見を言ったりできます。ジャンルは全く違うけどアプローチは自分の授業にも生かせるな、なんて考えたりもできるわけです。

もう1つは、ここまで書いてきたように、苦労したことや上手くいかなかったことに言及していること、です。

今回のセッションでは、学生がネットに対して不安を抱いていること、効果より手間を大きく感じていること、教師や他の学生に発言主がバレることへの不安、などが上手くいかない要因として挙げられていました。個人的には、双方向のやり取りを前提とした授業のスタイルに(心理的にもオペレーション的にも)学生が慣れていない、というのが大きいんじゃないかと聞いていて感じました。これはアプリがどうのこうのの問題にとどまらず、授業全体、コース全体のパラダイムを変えていく必要のあることです。だから簡単に解決しないわけなんですが、そこにも問題があるとわかれば、教育学に詳しい人たちの協力も考えていけますし、プレゼンの聞き手も自分の環境で似たようなことを実践する際に、あらかじめ問題となりそうな点をイメージすることができます。

例えば、シンポジウムでパネリストが話をしてる横のスクリーンで、匿名ツイートがニコニコ動画のようにリアルタイムで流れたら、会場はどんな雰囲気になるでしょうか。まぁカオスになるのは予想されますけど、聞き手の一体感は高まりますよね。パネリストは話しているそばから無言のツッコミが入るのですごくプレッシャーですが、そこは考え方を変え、つまらないプライドを捨てて、みんなで考えていくようにしたらいいわけです。面白いと思いませんか?これを実現する際も、このセッションにあったような問題が関わってくるはずで、有益な事例報告と言えると思うんです。

所属組織の事情もあるので簡単なことではないでしょうが、キレイな部分だけ取り出して成果を主張する事例報告は、ただの見栄っ張りの宣伝で、教育の問題を解決するヒントにはなりにくいと思います。ノウハウと技術が豊富な専門企業でなく、普通の教育現場での実践なんだから、失敗するのが普通。上手くいかないのが普通。それは別に恥じゃないんですよ。でも、その試行錯誤を共有すれば、次にやる人たちの失敗は少なくできるし、現場が変わっていくスピードも上げることができます。でも試行錯誤を秘密にしていては、それぞれの現場が同じような失敗をして無駄が多く、いつまでたっても現場の変化はスピードアップしません。

人が絡むことなのだから、技術だけで問題は解決しません。心のガードを外して、もっと互いの経験をシェアして高め合っていけるような、そんな場を作りたいなぁと思いました。誰かいっしょにやりませんか?