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教育の話抜きのe-Learningの話なんて、ね。

その授業って何のためにやってるんでしょうね?

教師にそんな質問をしたら、舐めてんのか!と怒られるかもしれません。でも、思わずそう質問したくなるような授業は実際にありますよね。特にe-Learningシステムの導入事例の発表は、そういう質問をしたくなるものが多い気がします。で、僕は実際に質問してしまうのです。

別に発表者を怒らせたいのではなくて、授業の目的をはっきりさせないと、導入したシステムや導入の試みの評価のしようがないと思うからです。発表者のためにならない質問や意見を投げかけても仕方がないので、発表者が何を考えてるのか、どういうつもりでやってるのかを理解して、そのうえでコメントしたいんですよね。

例えば、パターン学習を徹底的にやるためのe-Learningシステムがあるとします。実際やってみると画面も武骨な作りで超退屈な感じ。これって自分の好みに合わないなーと思えるものだとしても、導入前と導入後を比べると学習者の資格試験合格率が大きく向上したなら、それは評価できるものだと思うんですよね。授業の最大の目的が「学習者の資格試験の合格率を向上させること」であるならば。でも「学習者が楽しく勉強できる」とか「教師と学習者の双方向のコミュニケーションを促進する」とかいった狙いがある授業だった場合は、このシステムを導入すること自体に問題がある、ということになりますよね。それはe-Learningのシステムの出来云々とは別の話なので、システムの細かい話をつっこんだって仕方がない。

こういう極端な例だと「そりゃそうだろう」と思われるかもしれないんですが、e-Learningシステムの導入事例の発表は、その授業やシステム導入の目的がはっきりと語られないものが多いように思います。で、それでいて発表の終盤には学習者の成績をデータとして提示して、学習者の成績向上や継続学習につなげることが今後の課題だとかいう結論ばっかりだったりしませんか?学習者の成績が向上しないのはシステム以外に原因があるんじゃないの?とか、その授業で継続学習を学習者に求めるのは無理があるんじゃないの?とか思ってしまうことが多いのです。

聞き手も聞き手で、開発側の教育観とか授業方針とかすっ飛ばして、自分の教育観にそのシステムが合わないことに起因するような質問とかしたりして、発表者が困ってるという場面も少なくありません。そういう不幸な時間になるのを避けるためにも、発表者は授業の目的を明確に説明して、教育方針について意見をもらいたいのか、自分のやりたい教育を実現するためのシステムについてアイディアをもらいたいのか、はっきりさせた方がいいと思うんですよね。

「e-Learningシステムは道具なんだから使いようだ」というのは確かにそうなんですが、実際のソリューションってやっぱり哲学があるというか、一定の使い方を想定して設計されてると思うんです。それから大幅に離れた使い方にも堪えうる柔軟性を持ったものって、そうそうない気がします。だから教師は自分の教育観に合ったものを選ぶ・開発することが大事でしょう。同時に学習者にとってみれば、自分の学習観に合わないe-Learningシステムを押し付けられても困るわけです。それで成績の向上しなかった学生のグループに入れられて、システムが悪いか学生が悪いか、みたいな話になるのはあんまりです。

授業で学習者にアレやらコレやらをやらせること自体は、別に悪いとは言いません。e-Learningのソリューションを学習者別に用意するなんて現実的ではないですしね。でも、素晴らしいソリューションがあればどんな学習者にも対応できる、などというのは思い込み。こんな思いがあって、だからこんな授業を考えてて、うまくいかないことがあって、それを解決するためにITをこう使ってみたんだけども・・・という流れを意識して話せば、うまくいかない原因の切り分けも明確になるし、他の人も自分の文脈とどこが違うのかを理解しやすくなります。学習者のリテラシーのせいとか単純に決めつけることも減る気がします。

e-Learningは、もちろんIT用語抜きには語れないんですけど、本質は教育の話だと思っています。授業の話抜きにツールは語れない。発表の場でツールに焦点を当てた意見交換がしたいとしてもね。