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クリエイティブなポスターセッション

名古屋に来ています。日本語教育の国際大会で。いつもは海外のどこかでやっているのですが、今年は日本、名古屋での開催なんですよね。ということで、今回はポスターセッションという形で発表をしてきました(昨日の大会2日目に出番は終わったのです)。

ポスターセッションというのは、会場の壁とかついたてに模造紙を貼り付けて、その側で立ってプレゼンする形式のことです。これには口頭発表と違った難しさがあって、模造紙にはある程度の大きさで文字やら図版やらを描かないと、聴き手は話を聞きながら読めません。模造紙ってA4の紙だと10数枚のスペースしかありませんから、PowerPointなどでスライドを作る感じでアウトプットすると、ぜんぜん紙幅が足りないということになります。スペースを大きく使って流れ図なんかを描くにはスライドツールよりやりやすいんですが、キーワードだけにするなど本当に簡潔に書かないといけません。

模造紙の側で話すことはできますが、なんか学会によっては、そこで口頭プレゼンをすることを良しとしないようなケースもあります(今回は大丈夫でしたけど)。その趣旨としては、模造紙に書いた情報で一通りの伝達が完結しているようなことが望ましく、発表者は横で質問があったときに答える役をしてほしい、みたいな。まぁ理想はわからなくはないけど、現実は難しいよね、とは思うんですよね。内容には相当に左右されますが、聴き手の前提知識がバラバラであることも多い学会発表において、スライドにして10数枚の文字情報で完結するのはかなり困難な場合も多いですから。

あと、これは個人的な実感ですが、聴衆は多くのポスターを同時に見ていくので、たとえ可能だったとしても大量の情報を端から読ませるようなポスターって、理解するのに負荷が高くてげんなりするんです。ひとつのポスターに割ける時間って限られてるから、スピーディーに内容を把握したい。事前に予稿がある場合も多いですが、みんな確実に読んできてるなどとは期待できないですしね。キーワードだけ目立たせるとか、結論を最初にドーンと書いておくとか。

今回の僕らの発表は、自分たちで作った授業用SNSの利用状況を報告するというものでした。なので報告内容は模造紙に書いて、SNS(学内専用なのでみんな実物は見たことがない)自体は手持ちのiPadでブラウズしてもらうよう準備していきました。ところが、当日になってiPadの使用には係員からNGが出てしまったのです。ですので、何についての話なのか具体的に示せないまま報告する、というもどかしいプレゼンになってしまいました。

学会発表では、事前にICTの利用機器の申請を求められることが多く、今回もその手続きを十分に詰めていれば「iPadは使っちゃダメ」ということは言われなかったのかもしれません。そこは後でもう一度確認したいところですが、そもそも「ICTの利用機器の申請」ってなんで必要なのか、というのはちょっと思ったのです。ノートPCやプロジェクタなどの場合、電源が必要だとか、無線LANがほしいとか、設置場所やスペースが必要だとか、音を出すと他に迷惑だとか、まぁ調整が必要かなと思うことはあるので、そのための申請なのかなとは思います。でもiPadって、発表者が手に持って示すだけのものなので、本や資料ファイルを手に持つのと変わらないと思うんです、周辺環境に与える影響としては。なので、これって申請が必要なものなのかなぁと。じゃあスマートフォンも全部申請しなきゃだめ?とか。話の流れでサイトを見せたりしなきゃいけない場合も考えられますし。

思うに、学会発表の規約がアップデートされなくて、ICTの利用機器といえばPCかプロジェクタぐらいしか想定されていないから、こういうアナログ寄りのもの(中身はバリバリデジタルですけど、ハンドリングはアナログツールに近いので)の扱いが変な感じで規制されるのではないかと。当日の係員では判断がつきにくいものは一律ダメっていう対応になるのも、まぁ現場としてはよくあることですし。

ただ、発表の内容からいってこれはiPad使えないと辛いよね、みたいなことが素人目にも明らかなものもあるので、そこは柔軟に対応してほしかったというのが本音ではあります。そういう発表ならデモンストレーション枠というのがあるよ、というのも知り合いに言われたんですが、この形式って例えばサイトを扱う場合は「PC置いておくんでどうぞ使ってみてください」みたいなやり方なんですよね。プレゼンの中に実機確認を含めるような、インタラクションのある形には向かないんです。というか、そういうプレゼンを含めて、聴衆とのインタラクションがデザインしやすい発表形式が用意されてない、というのが、今回に限らず多くの学会発表の実情だと思います。

そういえば先日のPCカンファレンスでは、ポスターの中にiPadを埋め込んでくる発表者がいて、とてもクリエイティブだなぁと思いました。模造紙と壁の間にiPadを吊って、模造紙はくりぬいてしまう。限られたスペースを有効に使うアイディア。将来的に壁に貼るのが紙じゃなくて電子ペーパーだったら、かなりインタラクティブにプレゼンできるわけですが、これは現状にうまく折り合いをつけているなと思いました。

日本語教育系の学会に出ていつも思うのは、ICTも絡めた発表が極端に少なく、デジタルツールやネットの有効活用に関する話題がほとんど起きないこと。先のPCカンファレンスでの発表のように、学習者の環境もリテラシーもどんどん変わっていってるのに、学会の様子が昔のまんまというのもねぇと思うわけです。ICTの効果的な利用も想定したプレゼン形式に、ルールも柔軟に対応してくれたら、もっとクリエイティブな集まりになるんじゃないのかなぁ。今のままだったら、ネットにPDFと質問フォームのっけてればいいじゃん、ってことにもなると思うので。教育の現場を変えるには、学会も変わっていかなければな、と改めて思う今日この頃でした。