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ホームページからアプリへ

昨年度の授業を受講していた学生に、電車で偶然会った。一年ぶりの再会。僕は学校には週に1回としか行かないので、校内で姿を見かけることはなかったのだろう。先生は普段は何してるんでしたっけ?という質問をされた。

学生にとって「フリーランスで仕事をしている」というのは、なかなか馴染みがないらしい。そりゃそうだ。実の弟でさえ「無職と何が違うのか」と言うくらいなのだから。おまけに僕は、コードを書いたりグラフィックを作ったり教師をしたり何か研究モドキなことをしたりと、日によって全然バラバラの(ように見える)ことをやっているので、パッと説明するのが難しい。

だから名刺には「Webデザイナー」と今のところは記しているし、学期はじめの挨拶のときもそう名乗っている。Webもデザインも通りの悪い言葉なので、ホームページをつくる仕事をしている、などと説明を追加することも忘れない。

ということで、その学生にも再度同じように説明しようとしたら、「あー、思い出した。アプリとか作ってるんですよね」と先に言われた。アプリ?はて、そんな説明の仕方をしたはずはない。実際、アプリと呼べるほどのものはまだ作ったことがないし。何か他の話と記憶がごっちゃになってるのかもしれない。「いや、アプリは作ってないけど・・・」と訂正しようとして、ちょっと思った。いまの若い人にとってのWebって、ホームページじゃなく、アプリなんじゃないだろうか、と。

5年前に学生に「PCのイメージ」を尋ねたところ「ケータイのでかい版」と答えた人がいた。今や学生の多くがスマートフォンを持つようになったが、相変わらずPCは日常から遠い存在で、手のひらの端末からアクセスできるものがWebなのだろうという印象がある。通話も、メッセージも、写真も、動画も、音楽も、ニュースも、ゲームも、大抵のことはスマートフォンのアプリの中で完結する。たとえWebの情報を取ってきて表示する仕組みであっても、インターフェースがアプリである以上、それはアプリだ。サイトにしてもスマートフォン用のレイアウトで表示するところが増えてきて、ますますアプリっぽくなっている。もちろんブラウザもアプリだけれど、Webサイトを見る、Webページを見るという機会はどんどん減っている。わかりやすさ優先で僕が使った「ホームページ」という言葉は、いまやかえって分かりにくいのかもしれない。

Web制作は、紙をメタファーにしたWebページを積み上げることから、コンテンツを人に届けるパッケージそのものの設計に、その重要性がシフトしていく。そんな話を以前聞いてから、自分なりに世の中の変化を注意して見ているけれど、自分のすぐそばで、それは確実に進行しているのかもしれない。そんなことに思いを巡らせているうちに、学生は言った。

・・・ねぇ先生、うちの話聞いてます?