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発表をするのは「自分のため」だ

僕が発表をすることにコストをかけ、発表を聴くことにコストをかけ、発表をしようよ!と周囲にうるさく言うのは、ひとえに自分のためです。

僕はフリーランスで仕事をしているので、常に制作協力者やクライアントを探しています。学会や研究会やセミナーで出会った人とその後仕事をすることになった、というケースは僕のレベルでもいくつかあります。もちろん仲間が見つかったというケースはもっとあります。会社なら他の誰かが営業してくれるかもしれませんが、僕の場合は自分が動かないかぎり誰も何もしてくれないわけで、あちこちで発表して人と出会うことは、僕の唯一の営業活動です。

誰かの発表を聴くと新しい発見が得られることがあります。いや、あります、じゃないですね。新しい発見を見つけに能動的に聴く感じです。学ぼうと思えばいろんなことから学べるもの。だからいろんな話を聞きたい。だからいろんな話をしてくれる人が必要。だから発表してよ!って言うわけです。

こう書くと「私は人が何かを得られるような大したネタを持ってない」とか言う人がいますが、なぜ自分でそう考えるのかをちょっと考えてみてほしいです。自分にとってはずっと当たり前のことだから?自分のまわりはみんな知っていることだから?発表をしている人が話していることは、その人にとって当たり前のことが多いでしょう。その人の周りにいる人は、その人と関心や仕事が近い人が多いから、知っていることが似ているのも珍しくないでしょう。

だから「聴く人にとって既知の情報かどうか」は特に問題になりません。それなら知らない人が多そうな場所で発表すればいいんです。そうしたら、それだけで「聴く人にとって未知の情報」という価値を提供できます。

さらに「わかりやすさ」をプラスできれば、その価値は大幅に上がります。だって、大抵のことはググれば書いてあるんですよ。でも、みんなそう何でもググるわけじゃないし、ググった先の説明がすぐ理解できなかったり、これ以上調べるのが億劫だったりするじゃないですか。そんなとき、聴衆がわかりやすいと思える情報提供の仕方ができれば、それはもう大きな価値です。

もちろん、発表すれば「自分が知ってることにさらに知識をプラスしてくれる」可能性だってあるわけで、そういう場合はあえて詳しい人たちの前で話をしてもいい。解決したい問題があるとか、学ぶいい方法はないか?とか、聴衆に投げたらいいんですよ。誠実にやれば、きっと誰かがアドバイスしてくれるはず。

大切なのは「自分の持っている情報を誰に提供すればどんなリターンが得られそうなのか」を考えて実行することだと思います。それを考えることの方が、自分の狭い視野で「この情報は価値があるか」などと悩むよりずっと生産的。でも簡単なことでもないですよ、それを考えるのは。まず自分のやってきたことを見つめないといけないし、周りも見ないといけない。発表ができないと思い込んでいる原因は、日々の仕事に忙殺されて自分の立ち位置を見直せていないことが大きいんじゃないでしょうか。それって、発表するかしないかに関わらず、イクナイ。

そして勇気を出してやってみても、聴衆の大半は無反応なんです。これは自分のことを考えてみたらわかりますよね。普通、発表を聴くたびにアクションを必ず起こすことなんてない。だから、ひとりでも「よかったです」って言ってくれたら良しとしないと。発表後の懇親会で聞いて回ってもいいかもしれません。関心ない反応を目の当たりにするのは辛いですが、実のあるコメントだってもらえるかもしれません。そうやって場数を踏んで慣れていくしかないんです。同時に、自分が聴き手に回ったときは、発表者にできるだけ声をかけてあげればいい。

僕は、発表をすることは楽ではないと思っています。準備も大変、やるのも大変、フィードバックを得るのも大変。だから「やりたくない」と言ってしまうのもわかるし、世の中の人全てがやるべきだとも思いません。でも、発表をして自分の視野を広げていかないと、より多くのいろんな人と関わりを持っていかないと、自分の置かれている状況を自分で変えていくことはできないと思うのです。自分のデザインが人と社会を変えていくことを望むのなら、自分の行動で自分の人生も変えていったらいいと思うんです。だってあなたはデザイナー。それはライフデザインというデザインでしょう。