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わざわざ「学会」でやることを再考する

ふー。仙台から帰ってきましたよ。専門日本語教育学会というところで、来年度から本格的に取り組む予定の漢字学習サイトに関する発表をしました(共同発表なのでスライドの公開は許可が下りれば後日また)。報告だけだとこれでオシマイなので、学会発表、あと各種研究会や勉強会も含めた「場」について思うことを書いておきます。

インターネットのおかげで、以前に比べ、僕らは「誰かが語っていること」を容易に知ることができるようになりました。ブログに書いたり、原稿をPDFにしてアップしておけば、キーワード検索で見つけることができます(もちろん見つけられる可能性の高さ、露出度という問題はありますが)。YouTubeにスピーチをアップしたり、SlideShareでスライドをアップしたり、Ustで生中継したりもできます。TwitterやFacebookなどを組み合わせて、閲覧者とコミュニケーションを取ることもできます。

このように、情報を得るという点では、いまや本当にいろんな手段が用意されています。これは素晴らしいことだと思いますが、だからこそ、学会や研究会のような「わざわざリアルに集まって何かする場」というものを、ここらへんで考え直してみたほうがいいんじゃないかと思うのです。

僕が参加したほとんどの学会の発表形式は、発表20分、質疑応答5分、休憩5分という30分のセットを繰り返していくようなスタイルです。発表者はPowerPointのスライドを示しながら語り、質疑応答タイムでは聴衆が挙手して所属と名前を言って質問するのです。

僕はこれまで何度も発表してきましたが、質問タイムがわずか数分というのは短すぎる、といつも感じます。発表の内容や狙いはケースによって様々でしょうが、自分の考えを一方的に聴衆に伝えたいだけなら、わざわざ学会発表なんかしません。ブログを書けばいいです。それなら交通費もかからないし時間拘束もないし、好きな形式と分量で書けるし、学会事務局の審査に落ちるということもありません。

僕が「わざわざ」発表するのは、聴衆の意見を聞きたいからです。あるいは、その場に居合わせた人たちと何かを作っていきたいからです。大切なのはコミュニケーション。発表タイムの20分はその前座です。僕は10数分で発表を終わらせて質疑応答タイムに時間を割いたりします(例えば関西アンカンファレンスではそうしました)。

もちろん、語ることがメインで質疑応答はおまけ、というような意識で発表する人もあるでしょう。その場合は、その時間配分でもいいと思います。そうじゃない人には、持ち時間をもっと自由に使わせてほしいし、もっと言えば、全員一律25分とかじゃなくて、発表の内容や目的に応じて長時間枠や短時間枠を設ける姿勢がもっと学会主催側にあっていいんじゃないかと思います。発表形式を発表者が柔軟にデザインできるよう支援してほしい、ということです。

これは、主催側にも発表側にもより負担のかかる提案です。発表者は自由にできる部分が大きいので、その発表形式をデザインするスキルと実施コストが必要になります。主催側も、質の低い(例えばグダグダの)発表で溢れてしまえば学会の価値が下がりますから、その対策をしないといけないでしょう。例えばCSS Niteの主催である鷹野さんは、発表内容や形式の質を高めるために、発表者に本当にきめ細かなサポートを行っています。その労力や相当なものだと思いますが、だからこそあれだけの動員と満足度を実現できているんだと感じます。

また、IT系の研究会や勉強会でもそうですが、本編と懇親会がセットで実施されることはよくあります。が、懇親会=ただ流れに任せた飲み会、になってる場合が多い気がします。それも別にアリではあると思いますが、僕が東京のイベントに参加するときは、懇親会までがっちりイベントとして捉え、発表者に直接質問したり、普段聞けない話を聞くという意識でいます。でも引っ込み思案だと、なかなか自分から動いて声をかけにくい。そんなとき、自然に周囲と話を始められるような、発表者との意見交換の続きができるような懇親会の「仕掛け」というのも、イベントの質を高めるためにもっとあっていいのではないかと思うのです。懇親会じゃないけど、先の鷹野さんの例でいうと、隣席同士での名刺交換かな。

そんなにハードル上げちゃったら、主催側も気軽にイベントやれないし、発表者も萎縮してやれないよ!と言われるかもしれません。それは一理あるので、気軽な集まりというのも当然あっていいと思います。関西アンカンファレンスの主旨などは僕もよくわかりますし、応援したいなぁと思いますからね。

でも、イベントって規模に関わらず実施するのって大変ですよね。参加するのだって結構なコストだと思うんですよ。冒頭に書いたように、ネットを中心に情報を得る手段がこれだけある時代。時間とお金を使ってリアルにやるイベントは、それなりの対価を得たいと思わないですか?発表者も参加者も。勉強会に来ない人たちの何割かは、やっぱり参加コストに対して得るものが少ないって思ってるからじゃないのかな。それだったら、今のような形式的なやりかただと、必要な出会いが生まれないってことにもなると思うわけです。

コストをかけて「場」を共有するんだから、それを最大限活かした学会発表や勉強会であってほしい。主催者側も参加者側も、そろそろそこにもう少しこだわるべき時期じゃないかなぁ。