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デザイナーをどう育てるか

Osaka.cssというイベントに参加してきました。CSSという冠がついていますが、実際はざっくばらんにWeb系のテーマで話し合うというスタイル。デザイナーだけでなくプログラマーも多く参加していましたが、意識の高い方ばかりで、懇親会も含め楽しく意見交換ができました。主催の@konitterさんほか、みなさんおつかれさまでした。ということで、例によってレポートではなく感想文をつらつらと。

話題はいろいろ出てたんですが、プログラマーとデザイナーの仕事の分担のラインとかいう話の流れの中で、デザイナーが勉強しないのでどうしたらいいか困ってる、という話になりました。@shimaelさんが「高い意識を持てないのは個人の問題」という男前発言をされて、そこは確かに共感できるし、本当に意欲のないデザイナーは淘汰されても仕方がないと思うのですが、経営者からすれば生き残るためにも社員をレベルアップさせたいわけですよね。そこで「デザイナーの育成」について、僕なりに思うところを。

HTML5とかCSS3とか、あるいはJavaScriptとかを学ぶというようなスキルアップは、本でもWebでもセミナーでも使えば、大部分はひとりでやれると思うんですよね。正しいとされる記述の仕方を覚えていけばいい。もちろん正解がひとつとじゃない部分もありますけど、無限に答えがあるわけではないから、学び積み上げていけば確実に力にはなるでしょう。

学ばせ方としては、品質の社内基準をきちんと設定すればいい、という話が出てました。つい「間に合えばいい」とか「クライアントにつっこまれなければいい」という感じで、納品がゴールの品質ラインになってしまいがち。そこをディレクターとかチームリーダーが、俯瞰してプロジェクトを評価する。もちろんチーム内で相互に評価できればそれでいいですけどね。きちんとコーディングガイドラインを設けてるところもあって、それが(メンバーの入れ替わりなどの変化にも負けない)品質の安定を生むという意見も出ました。加えて勉強会などで社外の基準を取り込んで「自分の会社で通用してたらそれでいい」みたいな空気を変えていけるとより望ましいでしょうね。デザイナーのモチベーションを上げることになるかもしれませんし。

問題は、そういうある意味単純な知識の積み上げでは育たない、大きな意味でのデザインスキルをどうするか、ということ。デザインが問題解決だとすると、デザインのプロセスは「何を問題として捉え、その問題にどうアプローチし、どんな具体的解決策を示すか」ということになると思います。先のHTMLやCSSといった技術的なスキルは、最後の段階である具体的解決策に関わること。グラフィックのスキルも(単純な積み上げとは少し違うところはあると思いますが)基本的にはここに含まれるでしょう。前ふたつの段階、これはよくあるパターンといった知識だけでなく、考え方をアップデートできるかが大きい要素になると思います。

考え方をアップデートするって、けっこう難しい。勉強会や懇親会で人と意見交換できれば良さそうに見えるけど、そんなので変わる人は放っておいても変わることが多い気がします。まず「考え方を常にアップデートする」という意識がないと、そういう場にも積極的に行かないし、人と出会ってもまじめに突っ込んだ話をしない。

問題を見つけ出すには観察が必要。観察とは意識と目。正解がそこにあるのではなくて、答えを自分で見つける。問題を定義したら、ぴったり合うアプローチの仕方を試行錯誤する。視点をいろいろ変えてみる。これはアプローチのパターンを知っていること、考え方のフレームワークを持っていることなんかも重要。

クライアントとの真剣なやり取りという経験を積んでいけば、こうしたことは身に付いていくのでしょう。でもWeb制作会社って、クライアントと直にやり取りするのは営業とかディレクターで、デザイナーがクライアントからもユーザーからも遠いままサイトを作り続けてるってのが実態みたいです。ならば疑似的にでも、問題を切り出し解決策を考える経験を積めるような仕組みが必要じゃないでしょうか。

僕はこういうときにワークショップが必要じゃないかって思うんですよね。元々教育系だし演劇系だしってことで、体験の場をデザインすることにこだわりがあるからなんでしょうけど。場に身を投じることで、考えがクリアになったり、言葉にできたり、見たり聞いたり試したりできると思うんです。そしてそういう場は「きちんと」デザインしないと実現されないと思っています。教育学や演劇の場での経験からいっても、僕はこれは譲れない。

よく「きちんと」っていうのを堅苦しくネガティブなイメージととらえちゃって、ゆるくいこうよーなんて言われたりするんですが、意図的に狙ってゆるくするのと、何も考えず適当にやって結果ゆるくなるのとは違います。もし主催が適当にやって成果も生まれているのだとしたら、それは参加者がスーパーな人たちだからでしょう。スーパーな人たちはその場で判断して自分たちで場を再構築してものを生み出せる。そんな属人的な要素を最初から仕組みに入れちゃうのは(理想的には)避けたいですから。

僕の見るかぎり、教育学や演劇の世界で見てきたような、場をデザインすることができる人たちって、Web制作者にはまだまだ少ないように思います。デザイン業界という括りだと、面白そうな人は結構いる気がするんですけどね。そういう人材を他分野から引っ張ってきてでも、本当の意味でのデザインワークショップをやる。しかも1回かぎりじゃなく何度もあちこちで。専門学校とか大学の協力でやれないもんだろうか。

僕自身がデザイナーの育成にこだわるのは、それがWeb業界の成熟に必要なんじゃないかと思うからです。Webに関わる人たちは増えているけれど、山のようなどうしようもないサイトや、本質とかけ離れた制作プロセスが当たり前になっている感があります。需要には限りがあるのだから、いずれデザイナーは淘汰されていくもの。そうであれば、質の高さが評価されるような世界にしていかないと、業界全体が沈みかねません。人のため社会のため自分のため。

今年は、小さくともその形をひとつ提案できたらなぁ、と思っています。