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CSS Nite in TAKAMATSU Vol.6 に参加して考えたこと

CSS Nite in TAKAMATSU Vol.6 に参加してきました。岡山から高松まで電車で1時間かからないんですね。海を越えるんで遠く感じてたんですが、案外近い。

今回は行く前からかなり体調が悪く声が出にくい状態だったんですが、個人的に「このスピーカーさんのセッションはハズレがない」と思っている3人(鷹野雅弘さん、高畑哲平さん、長谷川恭久さん)に加え、ずっと気になっていたけど聞く機会に恵まれなかった中川直樹さんのセッションもある、となれば何としても行くしかありません。そして、行って大正解でした。

全体のテーマは「Webデザイナーのモチベーションアップ」ということでしたが、これはちょっと抽象的で難しいお題だったかな、という印象でしたね。4人のスピーカーはそれぞれの解釈で話を組み立てていて、バラエティに富んだ反面、話がやや横に広がりすぎてしまったかな、という感じもしました。それでも、語られる内容はどれも刺激的なものだったので、聴き手各々で掘り下げて楽しめるし、部分を取り上げて1つのセッションができそうな濃さがあり、全然問題はなかったのですけど。

また、プレゼンのスタイルも4人それぞれ違っていて、いろいろと参考になりました。中川さんは、けっこう迫力でゴリゴリ押すタイプなのかなと勝手に(プロフィール写真から)想像してたんですが、実際は「ね、みんなもそう思わない?」ってフラットに問いかける感じでした。心に熱いものを秘めつつ、聞き手とのコミュニケーションの取り方もうまくて、これはみんなファンになるよなぁと納得。あと今回は高畑さんのプレゼンが、時間と内容のバランスがいちばん取れていた印象を受けました。30分枠って長いようで短い。あまり詰め込みすぎない加減が、パッケージとしてお手本になるなぁと思いましたね。

さて、詳しい内容については、おかださんの馮さんの記事を読んでいただくとして、僕はいつも通り自分が考えたことを書いていきます。今回は大きく2つ。

ひとつは「Web制作者とお金の話」で、主に鷹野さんと高畑さんのセッション内容から考えたことです。

鷹野さんのセッションは、受発注の相手を決める上で大切なことは何か?とか、会社を回していくためにどのように仕事に取り組むか?といった、経営的な話題でした。会場の参加者に問いを投げかける形で進められ、鷹野さん自身の考え方の提示はあったものの、基本的には「みんなちょっと考えてみようよ」という内容だったと思います。で、思ったのは、Webデザイナーって、こういう経営視点で仕事を捉えることを、何となく避けてるフシがあるんじゃない?ということ。

漠然とした実感ですが「数字が苦手・見るのもイヤ」と言うWebデザイナーって、けっこう多い気がします。僕も特段好きというわけじゃないですけど、数字と経営について知ると面白いし、最低限のことを知っておくのは必要不可欠だ、と思っています。理由は主に2つあります。

ひとつは、そういう最低限の知識がないと、クライアントのやってるビジネスを理解できないかもしれない、ということ。Webデザイナーの多くはECサイトを手がけていて、クライアントのビジネスの支援をしてるわけですよね。そのビジネスの構造を理解しないで「ブランディングはお任せください」とか言っても説得力がない。

高畑さんのセッションで「Webデザイナーは商材を与えられてサイトを作るだけの扱いになっていた」みたいな話がありましたが、それは裏を返せば、Webデザイナーに商品の企画段階から情報を与えても意味がないと思われていた、ということだと思うんです。そりゃ、ビジネスについて理解できない人が会議の場にいたって、有用な意見は出せないだろうし、その情報をデザインに反映させることもできませんよね。

ビジネスについてどこまで学ぶべきか、時間を割いて勉強すべきかってのは難しい問題です。ただ、UXを勉強するセミナーには多くのWebデザイナーが集まるのに、経営の話にはあまり関心がないのっては、どうも矛盾してる感じがするんですよね。ユーザーの体験を媒介する商品は、経営の産物なんだし、経営的成功なしにユーザーの幸せはデザインできないわけで。

もうひとつの理由は「稼げないデザイナー」を演じていては永遠に稼げないということ。デザイナーがお金のことを口に出すのは美しくない、というイメージがあるのかもしれないですが、クライアントは稼ぐために発注してるし、制作会社は稼ぐために仕事をしてるわけで、デザインという仕事はその一端どころか柱ですよね。金銭的価値を気にしないデザインは、その点で言えばむしろ問題なわけです。

デザイナーが安月給でこき使われてるという現状は、そのアウトプットに認められている価値がその程度ということ。それをひっくり返して、デザインの、デザイナーの価値を周囲に理解してもらうためには、その対価であるお金のことに無知でいいわけがないと思うのです。今日も徹夜でモニタを見つめてる、なんてツイートを見続けたら、業界志望の若者だってどっかに逃げてしまう。何でも金に換算しろなんて言わないですけど、もっと当たり前にお金のことを語っていいんじゃないですかね。

僕は専門学校を出てすぐに(制作会社の勤務経験がないまま)フリーランスとして活動を始めましたし、最初の年から青色申告を(ソフトの力を最大限借りて)しています。また、4年前から調理師専門学校で飲食店開業をテーマとした授業を担当しているので、経理・経営の(というほどでもない、超がつくほど)基礎的な本は何冊か読んでいます。僕の場合は「必要に迫られて」という流れではありますけど、僕みたいな境遇じゃなくても、たとえ会社勤めのいちデザイナーであっても、こういう知識は押さえておいた方がいいなぁと今は強く思っています。

なので、Webデザイナー向けに経営的な話を扱うセミナーがあったら人気出そうとか思ったんですが、そういう基礎的なところは(僕が勉強したように)本もあるんで、まずはそれ読めよって話なのかもしれません。さすがにWebデザイナー向けの本はなかなかないでしょうが、モノを売るブランディングの本は結構あるし、クライアントの業界のことを調べてみてもいいかと。

ってことで前半の論点終わり・・・相変わらず長文だなぁ(笑)

もうひとつの論点は、中川さんや長谷川さんのセッションを聞いて考えた「Webデザイナー」って何をする人なのか?ということ。

中川さんはセッションで、インフォグラフィックやCIを例に挙げ、グラフィックデザインの基礎の大切さに言及されていました。何やら原点回帰にも見えますが、スマートフォンやタブレット、家電やデジタルサイネージなど、Webの技術が生かせるデバイスが多様化していくというのは、そういう基礎的なデザインスキルが問われる(逆に言えばそこがクリアできれば活躍のチャンスは広がっている)時代でもある、ということなんだと思います。

長谷川さんの話もこれに矛盾しないものだった思います。ピクセルパーフェクトからの脱却、Webらしさをデザインするということは、グラフィックアプリのウィンドウのなかで世界を完結させようとするのではなく、それがどのように届けられ利用されるかまで含めて、全体のバランスを見て表現を選んでいくことなんだと思いました。

WebデザイナーはWebをデザインする人のことですが、デザインの対象としている「Web」とは何なのでしょうか。歴史的には「Web」とは「サイト」であり、もっと言えば「ページ(の見えかた)」という認識が長くなされていたと思います。だからこそ、グラフィックをきちんと固めてからコーディングをするようなワークフローが今も主流で、カンプ作りの作業が発生するのでしょう。でも、そういう時代は終わりつつあるんですよね。Webという言葉は誰にも自明なものではないし、デザインという言葉もグラフィックだけを指すのではありません。

そう言うと、特にグラフィック系アプリを使って仕事をしてきた人、デザインするといえばビジュアルを作ることだと考えてきた人は、自分の地位が脅かされるというか、これからが不安になるところもあるようです。実際、懇親会の場ではそういう声も耳にしました。アレもコレも勉強しないといけないの?とか、モックアップをまず作る流れになったら仕事がなくなるんじゃ?とか。

それに対する僕なりの考えは、シンプルに「自分が活きるためには何をすればよいか考える」ということ。サイトにしろサービスにしろアプリにしろ、質の良いグラフィックを作る仕事が失われることはないはず。なので「自分はグラフィックの腕で食っていきたい」というなら、求められるものやワークフローを意識して、必要に応じて自分を「自分の力を発揮できる形に」変えていけばいい。それと同時に、自分の守備範囲外をうまくフォローしてもらえるようにすることも大切。弱いところを補い合える人材とチームを組むこと。互いに気持ちよく効率的にフォローしあうためのスキルを身に付けること。つまり、プロジェクトの中で必要とされるように自分を持っていく、ということです。当たり前といっちゃあ、当たり前ですけど。

僕は、デザインといえばコミュニケーションだ、と思っている人なので、関係者と話をし、状況を観察して判断することこそ自分が活きる仕事だと思っています。そのこと自体は、デバイスの多様化やワークフローの変化には関係がなくて、サイトやサービスやアプリとして具現化する人たちにいかにサポートしてもらうか、必要とされるかこそが大事。だから状況の変化はチャンスと思っているくらいです。モチベーションは常に「あげぽよー」ですよ。

僕にとって長谷川さんのセッションは特に、そういう自分の考え方を確認したり、改めて深く見つめ直したりする良い機会になっています。今回のセッションは、抽象的な話と具体的な方法とがバランスよく、内容も盛りだくさんだったんですが、それだけに、人によっては消化するのも簡単ではないなぁと感じました。

自分自身がプレゼンをするときもそうなんですが、スライドをテンポよく送りつつ流れるように話せると、聞き手が考える隙間がなくなっていく場合があるんですよね。プレゼンの絵としてはキレイなんですけど。プレゼンで取り上げられていることに対して事前に問題意識があったり、前提となることが自分の中で整理されていれば、話を聞きながらいったん立ち止まったり、異論を差し挟んだりもできます。でもそうじゃないと、消化が話のスピードに追いつかなくなって、プレゼン自体に飲まれてしまうというか、なんとなく全体として「良かった」という感想に終わってしまうこともある気がします。

そういうときに懇親会で、参加者同士でセッションを振り返ってみる、自分や他の人の意見を重ねて考えてみる、ということができるといいんですが、まぁお酒の場ということもありますし、初対面同士の自己紹介なんかに時間を使ってしまうので、なかなかできないところがありますね。僕としては、この話についてみんなどう思ったのかな、ということが(講演者でもないのに)気になったりするわけです。話の内容を自分の中に落とし込むには、自分なりの意見を誰かに説明したり、他の人の見解を知ることが不可欠なので。セミナー後にがんばってブログを書こうとするのも、そういう理由だったりします。家に帰るまでが遠足なのです。

なので「セッション+パネルディスカッション」みたいな形式もアリなんじゃないかなぁと最近は思い始めています。ちゃんとしたものにするのが難しい形式ではあるんですけど、イベントの中にそういう「振り返って考える時間」があると良いのかなと。CSS Niteで鷹野さんがセッションの合間や質疑応答で話をするのも、僕はそういう効果があると感じています。あれは地味に映ってるかもしれないですけど、いつも焦点が的確なので、すごく高度な技だと思いますね。

ということで、とても楽しく充実したイベントでした。次に高松に来るときには、うどん王子と競演したいですね。彼はJavaScriptが得意だそうですが、それだと僕は勝ち目がないから、ディレクションとかプレゼンテーションとか、そっち方面の話でお願いします(誰。

関係者のみなさん、どうもおつかれさまでした&ありがとうございました。