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レビュー:もう学校も先生もいらない!? SNSで外国語をマスターする《冒険家メソッド》

村上吉文さんから「もう学校も先生もいらない!? SNSで外国語をマスターする《冒険家メソッド》」をいただき、楽しく読ませていただきました。久しぶりにブックレビュー的な記事です。

読む前は「表紙もカジュアルだし、広く浅く概念解説寄りの入門書かなぁ」などと思っていたのですが、実際は違いました。けっこう詳しい具体的な手段の説明があるし、すでにある程度チャレンジしている人にも参考になる「冒険を進めていくと出会うもの」にも言及されていて、なかなか中身の詰まった一冊でした。

僕はこの本を「日本語教師をはじめとする語学教師で、ずっとICTに距離をおいてきた人たち」はどう思うかなぁ、ということを考えて読み進めていました。ですので、このレビューはそういう視点で書いています。

最初の章(序章)は、著者である村上さん自身の経験が語られています。この章で、著者が(教師としてだけでなく)学習者としてどのように学んできたのか、自身の体験からどのような考えを持つに至ったのかを知ることが、以降の内容の理解にもつながると思いました。だからここはしっかり読んだ方がいいですね。

逆に本編は「なんだか知らない言葉が出てきてキツいなぁ」と思ったら、そこは読み流し気味で構わないんじゃないかと思います。ソーシャルブックマーク、Google+、Chromebookなどが出てくるあたりは、具体的に書かれているぶん、普段ICTに馴染みがない人には引っかかるところかなと感じました。またあとでというか、いつか戻ってきて読み返す感じでいい。最後まで読んで全体的な理解を得ることが、この本の読み方としてはまず重要だと思うからです。

また、構成や説明の仕方に関しても、人によっては違和感を持つんじゃないかと思いました。学習を構成する要素については一般的に幅広く言及されていますが、情報機器やツールやサービス、その使い方などの解説については、あくまで著者自身の「私はこう使ってみた」という視点を大切に、どちらかといえば狭く具体的に述べています。隙の少ない教科書的な書き方とは違います。

この本を読み進めるうちに、この書き方ってエンジニアの書くブログのスタイルと共通点があるな、と思いました。エンジニアというのは、ここではコンピューターのプログラムを書くことを仕事にしているような人を指します。そういう人たちが、いわゆる技術の話をブログに書くときは、「ちょっと作ってみたいなと思って(あるいは対応すべき問題が出てきて)、こんなふうに考え、こんなプログラムを書いたら、こういう結果になった、今後はもっとこうしたい」という流れで書くことが多いように思います。つまり、自分の実践したことを具体的に順を追って書く、ということです。

僕は日本語教育の世界からウェブサイト制作の領域に活動を広げた人間なので、エンジニアのブログはよく読みます。やりたいことを実現するサービスを探したり、エラーで思うように動かないプログラムを何とかしようとしたりするとき、こうした実践の記録を検索し、読んで大いに役に立てています。自分の状況がブログとまったく同じ環境・同じ問題ではないことも多いので、適当に無視したり読み替えたり、試してみて上手くいかなければまた探したりします。試行錯誤だから大変だけど、解決した時は嬉しいし、そのプロセスもまた楽しい。著者の言葉を借りれば、これは立派な「冒険」ではないかと思います。

なので、この本もそういう「個人の試行錯誤」として読む、読んだ後に自分も試行錯誤してみることが求められる、と思いました。ずっとICTに距離をおいてきた人は、そういう読み方そのものに慣れてないところがあるんじゃないですか?整った情報、全方位的なフォローのなされた完全ガイドを求めがちではありませんか?でも、そこに広がっている世界は試行錯誤が前提の世界なんですよ。大なり小なり冒険心が必要なんです。

そんなことを考えて、やはりこの本は「ぼうけんのしょ」なのだな、と改めて思いました。ドラゴンクエストを知らない人向けに言い換えると「私の冒険の記録を綴った本」です。決して「宝のありかまでの最短ルートを示した地図」ではありません。だからこそ、幅広い人にお勧めできる本ではないかと思います。

最後にゲームのたとえを出したので、語学やプログラム以外の「冒険ができる学び」として僕がお勧めしたいのが、Nintendo Switch「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」です。あー、これはまさに冒険だな、さまざまな学びが得られるな、と思ってもらえること間違いなしです。日本語教師ってゲームをやってる人が少なすぎる印象なので、まずはこの作品でゲームへの理解を深め、教育実践にも生かしていただければと思います。